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■会合へGO!・下

ナイトメアはようやく場を仕切るきっかけをつかめたようだ。
「ゴホン。と、ともあれナノ自身の結論が出た。
私たちはこれから会合に行き、結果を報告しよう。
それで、その後にナノの滞在地移転の準備を……」
「必要ない」
ブラッドが遮り、空になったティーカップを置く。

「塔の粗末な支給品は、そちらで処分してくれ。
お嬢さんの物は、全て帽子屋屋敷で用意させてもらう」
そして場違いなエースをチラッと見る。
「もちろん珈琲などという劇物は我が屋敷では禁ずる」
あー……忘れてたけど、ブラッドは大の珈琲嫌いでしたっけ。
私は紅茶も珈琲も同じくらい大好きだからタチが悪い。
これはこれでマフィア問題と同じくらい重大だ……どうしよう。
ナイトメアが言った。
「ナノ。それで我々は会合に行くが、君はどうする?
エリオットと顔を合わせづらいなら、部屋で待っているか?」
私を案じてくれるナイトメア。私はキスしようとするエースの顔を、渾身の力で
押しのけながら……というかこの男、誰か止めて。いや本気で。
目ぇそらさないで下さい、ナイトメア!
ちなみにビバルディは、ボスとのやりとりや部下の一人漫才は、全て無視。
兵士を何人、どうやって斬首するかブツブツ計画を練っている。怖いなあ。
「じゃ、一度お部屋に戻ります。会合の後、塔の人とかグレイにお礼を言って……」

「会合に出ないのなら屋敷に戻りなさい」

ブラッドに命令される。
え、いきなり心の準備もなく、それはちょっと……。
「ですがブラッド。グレイや塔の人たちには、たくさん迷惑をかけました。
しっかりお礼を言って出て行き……」

「命令だ、ナノ」
「……はい」

ブラッドとエリオットに従うと誓ってしまった。
私は少しうつむき、うなずいた。

それで私はナイトメアに頭を下げる。
「ではナイトメア。私は会合に行かず、このまま屋敷に行きますね。
グレイには、私がお礼を言っていたとお伝え下さい。
あ、ついでに、あなたにもお世話に」
「ナノ。君、まだちょっと私が嫌いだろ……」
「あははは!俺、もしかしてハートブレイク?」
「いえ、ハートブレイクって古いですよ、エース」
「首をはねるのは十人……いや二十人じゃ。一列に並ばせ、端から……」
「無駄口を叩いているヒマがあったら出発しなさい、ナノ。
帰る途中でエリオットが追いついたら、君も困るだろう」
「そうですね。追いつかれる前に屋敷に退散します……」
念入りにシャワーを浴びとかないとなあ。

そして物騒なんだか、にぎやかなんだか分からないお茶会が、お開きになろうとしていた。
「それでは、本当に私はこれで……」
私は出て来たとき同様、着の身着のままで屋敷に戻ろうとした。

そのときエースがポンと手を打つ。
「あ、そうだ。渡すときガッカリさせようと思ってたから、言わなかったけど」
「はあ?」
いきなり何ですか。
扉に手をかけようとしていた私は、つい冷たく振り返る。
「実は俺があげようとしてたのは、高級珈琲豆じゃないんだ。
いや、本当に高い珈琲豆を探したんだけど、ちょうど品切れで無くて」
「そ、そうですか。いいですよ。どうせ飲めませんし」
「だからいっそ斜め上のものを用意して、ウケを狙うことにしたんだ。
会議室に用意してあるのは違うやつなんだぜ」
何だそれは。『珈琲豆だと思って開けたら麦茶でした』とか?×××すっぞ。
またどうでもいいことを、と、私は無視して扉を開ける。
そして扉が閉まる寸前に、楽しそうなエースの声が聞こえた。

「見たら驚くって。最高級の『玉露』なんだ!」

扉がパタンと閉まる。

「…………」

私は静まり帰ったクローバーの塔の回廊でたたずみ、エースの言葉を反芻する。

玉露。玉のつゆ。緑茶のすっごく美味しいやつ。
日本人の心。
不思議の国に最初に来たとき、唯一持っていた物。


私の……大好物……っ!!


「玉露ぉおおーっ!!」


猛然と、無いはずの砂煙を立て、一目散に会議室へ爆走した。

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