続き→ トップへ 短編目次 長編2目次 ■会合へGO!・上 ビバルディが真っ先に口を開いた。 「下がれ、エース。おまえにこの場に立ち会う許可は与えていない」 ブラッドに負けた屈辱もあるんだろう。ものすごく不機嫌そうな声だ。 でもエースは気づいてか気づかないでか……多分、気づいていて、笑っている。 「あははは。すみません、道に迷ったんですよ。じゃ、行こうぜナノ。 会議室はすっごくにぎやかなんだ、君も楽しいと思うな」 ……すがすがしいほどあからさまに、私を連れ出そうとする。 私はソファに座り、ため息をつく。 「申し訳ありませんが、帽子屋屋敷に行くことになったんです。 あなたのところには行けませんよ」 ……というかエリオット始め、ペーターやグレイ、ボリスたちまでいるんでしょう。 どれだけの修羅場に突っ込めと。 「あ、帽子屋屋敷に戻るんだ。大変だね、ナノ。あはは!」 ……嬉しそうに言うなあ。 まあ私の不幸が嬉しいという変態だから仕方ないか。 するとブラッドが、 「騎士。奇跡でも起こって会合の会議室にたどり着けたら、我が腹心にこの朗報を 伝えるといい。狂うほど恋い焦がれた女がもうすぐ手元に戻る、とな」 ブラッドは静かに穏やかに、私の紅茶を飲んでいる。 エースはソレを聞いて、私をまじまじと見た。 「ふーん。本当の本当に?ナノはそれでいいんだ?」 「ええ、まあ」 「大丈夫かい?今の君と今のエリオット、温度差がすごいけど」 「…………」 そうは言われても、この問題ではブラッドがエリオットに全面的に味方している。 そして今のブラッドは私の安全より、腹心の安定がはるかに大事。 紅茶については変わらず高く評価してくれてるみたいだけど。でも自分の嗜好と 腹心および組織の安定は、また別問題だ。 私たちの温度差がすごかろうと、破綻が目に見えていようと、一時でもエリオットが 落ち着く道具になればいい。私についてはそう考えているらしい。 しかも戻らなければ無差別に顔なしを始末するという。 そこまで言われ、従わないワケにいかない。 「エリオットは好きですよ。命の恩人ですし、いろいろお世話になりましたし。 それに、もう領主お三方の前で誓約しました。帽子屋領に戻ると」 「ふーん」 エースはそれきり何も言わない。ちょっと意外だった。 てっきり、イラッと来るコメントでも寄こすかと思ったのに。 でも何も言わない。 それに気のせいか、むしろ笑いが薄れたような……夕日のせいかな。 そう、窓の外の時間帯は夕刻に変わっている。 私は三杯目だか四杯目だかの紅茶を淹れ、またソファでうなだれる。 部屋には、夕刻なのにイライラしっぱなしのビバルディ、くつろぐ帽子屋。 場を仕切るに仕切れず、困った様子のナイトメア。落ち込んでいる私。 そんな奇妙なお茶会を眺め、エースは言う。 「ま、いいか。それよりナノ。会えて良かった。これは運命だ!」 思い出したように口説き出す。 「はいはい」 「会えば会うほど君のことが好きになっていくみたいだ。 どうでもいいことを、延々と悩み続ける君、自分から、不幸に飛び込んでいく君を 見てるとさ。この子には俺がついててあげなきゃって、思えてくるんだ!」 「はいはい」 「君が好きだぜ、ナノ。エリオットや滞在場所は関係ない。俺は本気だ」 「はいはい」 「で、この前のココア、すごく美味かった!あんまり美味くて、遭難……前回の旅で 全部使い切っちゃってさ。あの糖分がなかったら今ここに俺はいなかった!」 こちらのスルーをスルーし返しやがった……。 というか、あのココアは本当に遭難の非常食になったか。 まっとうに消費されたから文句はないけど、何だかなあ。 「追加のココアが欲しいんでしたら、厨房にどうぞ。あそこに売りましたから」 素っ気なく言うと、エースは私のところに来て、馴れ馴れしく肩を叩き、 「いや。感動の味だった!だから是非お礼をしようと思ってたんだ!」 「お礼は結構。誤発注のお詫びにやったものですし、だいたいあなたは無関係……」 「有名店のブランド珈琲豆セレクションなんだけど……」 「ありがとうございます、エース!あなたの笑顔のため作ったかいがありました!」 エースの両手を、私の両手で包み込み、心をこめて熱く言う。 「うんうん。俺の愛を分かってくれて嬉しいぜ」 顔を近づけるなっつの。 キスしようとするエースと押しのける私。二人して無言で戦っていると、 「……分かりやすいな、ナノ」 と、ナイトメアが呆れたように言った。 5/6 続き→ トップへ 短編目次 長編2目次 |