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■会合、始まる・上

※R12

……そもそものきっかけは何だっただろう。
そう。ナイトメアと別れ、ボリスを説得しようと決意して目覚めた。
そして目を開けるとすぐ隣にボリスがいた。
『可愛い寝顔だったね』
と、そう言って笑う、会合スーツ姿のチェシャ猫がいて。

……そのまま覆いかぶさられた。

…………

とりあえず、逃げようと必死です。
チェシャ猫さんは、恋人でも何でもないのですから。
「ん……ぁ……」
私の努力を水泡に帰するがごとく、ボリスは私の両頬に手を当て、何度もキスする。
「ナノ、ほら、もっと舌出して……」
「ボリス……だ……あ……」
否定を紡ぐはずだった唇は、チェシャ猫に捕らえられ、いいように弄ばれていた。
つか猫舌が!ザラザラしてて、くすぐったい!
「ん……」
声がうわずる。ギュッと目を閉じて耐えようとするけれど刺激は増すばかり。
巨大な猫に愛されているという倒錯的な幻覚さえ、引き起こす。
「いい子だから目を開けて……俺を全部受け入れて……」
甘く低い言葉を、耳元でささやかれる。
ていうか、ボリスのリボンタイが結構くすぐったい。
そして、『かろうじて女』な私より、素肌リボン……もとい、会合用スーツを着た
ボリスの方が色気があるように思えるのは気のせいか。
「やだ……ダメです……!」
両膝をしっかりくっつけ、間に踏み入ろうとするチェシャ猫をガード。
この世界のボリスとは、ほとんど知り合った直後だ。
いえ、時間帯が経っていたとしても、こういう関係になりたくない。
いくら勝手にモテモテな世界だろうと。私のモラルが濁流に乗って、下流まで押し
流されていようとも。抵抗を止めたら終わりなんです。人として、女の子として!

「んっ!」
首筋にチクッと痛みを感じ、目を開ける。チェシャ猫さんが鎖骨のあたりに牙を軽く
立てたようだ。そのまま胸元のボタンを一つ外す。
慌てて両手でガードしたけれど、ボリスの手が……うう、しなやかな肉食獣の手は
意外に強い。腕を少しずらされて、その下のボタンを外される。
襟元をゆるめられ、鎖骨の下の肌がよりあらわになり、顔が赤くなる。
「ボリス!いい加減にしないと怒りますよ!」
するとチェシャ猫は嬉しそうに、
「いいよ、怒って。子猫が毛を逆立ててるのって、可愛いからね」
「それは確かに……じゃない、誰が子猫……ん、や……」
さらにボタンが外される。服をさらにずらされ、胸をおおう布地が見え、
「ボリス!だ、ダメ、そこだけは……」
「そう?待ってましたって反応だけど?」
「ん……ぁ……っ」
布地の上から、小さく張った場所を舐められる。
瞬間、背中にビクッと電流が走り、腕の力がかすかに弱まった。
「ん……や……っ」
「可愛い……ほら、やっぱり待ってた」
布地をまくられ、胸が一気にあらわになった。
「ボリス……っ!」
怒ったつもりの声には、若干の艶が混じっていたかもしれない。
ボリスは私の変化に気づいたのか『チェシャ猫』の笑みでニヤニヤと、
「ナノ、ねえ言ってよ。『欲しい』って。『メチャクチャにしてほしい』って。
……言ってくれたら、激しくしてあげるよ?」
「そんなこと……言えるわけ……や……っ」
ボリスの手が胸を覆い、形を確かめ、先端を指の腹で撫でる。
そのたびに、私は馬鹿みたいに声をあげ、目に涙をにじませる。
「ボリス……お願い……」
止めて欲しいのか、続けてほしいのか、自分でも分からない。
ボリスがそんな私を見下ろし、かすかに喉を鳴らす。
「ねえ、見せてよ。いいだろ?ナノの一番可愛い場所……」
彼の声も熱い。頬が興奮でかすかに上気している。
「や……っ!」
ボリスの膝が、固く閉じていた私の両足に割って入る。
唾液の絡むいやらしい音がする。
猫の舌が、私の胸を執拗に愛撫する音が。
そして彼の手が下に、腰をつたい、下着の中へ。
「あ……ああ……っ」
はしたなく潤み、本能のまま雄を待ちわびる場所へ……。

「にゃんこ、いるー?会合、もう始まっちゃうよ?」

唐突すぎる元気な声が、妖しい空気を霧散させた。

…………

「ナノ、ねえ機嫌を直してよ。ナノ?」
「…………」
私は体育座りで壁を向いたままだ。
「ナノってば、ねえ、謝るからさ!」
「…………」

あの後。正気に戻った私は、もちろん浴室まっしぐらだ。
でも全身を洗浄した後は床に座り、壁を向いたきり。
その私に声をかけるのは、私によってボコボコにされたボリス。
叩かれた箇所をなで、苦笑しながら私をなだめていた。
「悪かったって。次は絶対に馬鹿ネズミに邪魔させないから!」
……しかも私を『襲ったこと』ではなく『中断したこと』を謝っていやがる。
「ひどいよ〜俺、会合に遅刻しないようにって教えに来てあげたのに〜」
そしてチェシャ猫によってボコボコにされた眠りネズミ、ピアス=ヴィリエ。

眠りネズミさん。マフィアの下っ端、心は清らか、お手々は真っ赤っか。
境遇ゆえか種族ゆえか、元からああだったのか、笑顔でたいそう病んでる子である。
同情すべき点は多けれど、私も寄りそえるほどには、人間が出来ていない。
今は遠くから……可能な限り遠くから、彼の幸せを願うのみだ。

「あのなあ、もうちょっと空気を読めよ、馬鹿ネズミ!
俺はナノと、すごくイイところだったんだよっ!!」
私が振り向かない腹いせか、ピアスを凶暴に怒鳴りつけ、拳でぶん殴るボリス。
ごっつんと痛そうな音。
「ひどいよ、ボリス〜!」
可哀相なピアスの泣き声。
「うっとうしいんだよ、おまえは。何、いつまでここにいるの?」
「い、いつまでって、もう会合だから……」
「おまえが知らせに来なくても知ってるよ。眠りネズミのくせに生意気なんだよ!」
……さっきまで神秘的でエ●い猫さんだったのに、今は、ほぼガ●大将だ。
「にゃんこがいじめる〜!」
そしてシクシクとマジ泣きになる眠りネズミさん。
彼が本格的にいじめられそうな気配に、さすがに見過ごせず壁から振り返る。
するとピアスと目があった。私は条件反射で、
「ど、どうも。ナノです……」
「……?」
ピアスはきょとんとして私を見る。
「ん?何だよ、馬鹿ネズミ。ナノがどうかしたのか?」
そして何かを思い出すように宙を仰いだ。
「あれ?あれ?『ナノ』って名前……」
そして、ボリスにいじめられたことはどこへやら。
パッと顔を輝かせて言った。

「思い出した!エリーちゃんが、すごく、すっごく必死に探してる女の子だ!」

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