続き→ トップへ 短編目次 長編2目次 ■ボリスに飼われるハメになった経緯・中 「でもいいか。何か気が合いそうだし。じゃ、よろしく」 ボリスは猫らしく、サッと笑顔になり、私に手を出す。 「ど、どうも」 友情の握手?やけに一方通行気味な会話しか交わしてない気がするけど。 まあ猫さんは気まぐれだし、マイワールドで勝手に完結したのだろう。 私もぎこちなく手を握って笑う。するとボリスはなぜか安堵したように、 「良かった……」 そして私の頭を撫でてくれた。『良かった』って何でしょう? 「ん」 ――へ? ちゅっとボリスがキスをした。とっさに対応出来ず目を見開いてると、 「目を閉じて」 「は、はい」 『顔なし』の悲しい習慣で、従順に目を閉じる。 するともう一度、ボリスの唇が重なる。今度は深く押しつけるように。 ――あれ?えーと……何で私がボリスとキスを? ペーターも一目惚れだったし、余所者効果なのかな。 でもボリスは別にそんな風には見えないけど。 ともかく予想外の展開に、私は真っ白に固まるしかありませんでした。 ………… さてボリスはチェシャ猫さん。チェシャ猫さんは空間を切ったりつなげたりするのが お仕事。要は『どこ●もドア』な能力が使えるのです。 トンネルを抜けると……じゃない、扉を開けると、前衛的な空間でございました。 空間をつなげて、森からボリスの部屋につないだらしい。ボリスは私に、 「ここが俺の部屋」 「お邪魔します」 彼の作ってくれた扉を通ってきた私は、入り口でペコリと頭を下げる。 するとボリスは笑った。 「いいって。あんたはしばらくここに住むんだから」 「はあ……」 頭が真っ白なまま、私はフラフラと見覚えのあるソファに腰かける。 ――『ここに住む』……? 何だか現実味がまるでない。さっきから何が起こってるんだろう。 するとボリスも続いて隣に座った。 そして私に身体をすり寄せ、自分の匂いをこすりつける。お耳が頬に触れて、幸せ。 「あんたって、何か面白い子だね。初めての場所なのに妙に慣れてるし」 いえ、実は初めてじゃあないんです。 ……前いた不思議の国絡みなことなので言えないけど。 「ていうか、なぜ私がここに住むんですか?」 ボリスと一緒に昼寝した。 撃たれかけた。 キスされた。 部屋に連れていかれた。 ……イベントが省略されすぎて、ゲームの進行状況がサッパリつかめない。 バグか、裏技か。チートしたくないんでセーブデータからやり直させて下さい。 「もっといい部屋がいいの?飼われるのに文句を言わない!」 と、私の頭をコツンと叩く。 どうも『ここに住むんですか(ビミョー……)』と取られたようだ。 「いたた……飼われる?」 「そ。だから、ここで我慢しなよ。あんたも広々してると落ち着かないだろ?」 「あ、それは言えてますね。だだっ広いより、小ぢんまりとゴチャゴチャした方が」 「だろ?だろ?俺の部屋は最高だよな!」 いえ、あなたの部屋はカケラも褒めてません。 ていうか私がここに住むという疑問は置き去り? ボリスはゴロゴロと喉を鳴らし、私の膝に勝手に頭を乗せた。 久しぶりの膝枕。うう!耳にすごく触りたいですっ!! 「何か、あんたのこと、すごく気に入っちゃったな。出会い方は最悪だったけど、 のんびりしてて面白いし、気が合いそうだし、何もなくても飼いたくなってたよ」 ……ツッコミどころが多すぎてついていけない。 「あの、気に入っていただけたのは光栄ですが、解説してほしいのです。 いきなり飼うとか、キスするとか、何なんですか?」 出会い方は最悪とか、さらに意味不明な用語も出てくるし。 「ん?またキスしてほしい?甘えん坊なんだ」 と嬉しそうに言い、膝から顔を上げ、また『ちゅっ』。 ……疑問をスルーしないで下さい。 でもワザとでは無さそうだ。興味の無い話は普通に流すタチらしい。やはり猫だ。 ボリスは心のツッコミに気づかず、私のお腹を鼻でくすぐり(!)、 「匂いも面白いよね。紅茶、珈琲、それにココアが混ざって……」 「っ!!」 ヤバイ。思い出した。目の前の現実はよく分からないけど、自分の現実を思い出し、 真っ青になって立ち上がる。 「ふにゃっ!」 ボリスが膝から転げ落ちるのも気にしない。 私、塔の仕事をサボったんでした!会合前で忙しいのに! グレイがあんなに私の面倒を見てくれたのに! ナイトメアが必死にフォローしてくれたのに! 「にゃ、にゃに!?いきなりにゃんなの!?」 「ボリス!図々しいのを承知でお願いします!塔につないでください!」 「え?塔ってクローバーの塔だよね。何で?」 地面で再度のたうち回っていたボリスは、ポカンとして私を見上げる。 「私、今はそこで働いてるんです。もう帰らなきゃ!」 「はあ?あんたが帰る場所はここ。あんただって俺についてきただろ?」 まるでイタズラした子猫を叱るように言う。 「いえいえいえ、あのときはちょっと錯乱してたんです。 とにかく会合が近いんです。どうかお願いします、ボリス!」 ついつい、前の不思議の国のノリで、馴れ馴れしくお願いする。 ボリスはイライラと尻尾を激しく振りながら、 「それに所属不明とか言ってたのに、実は塔の顔なしだったの?」 「正式な職員じゃないんですよ。困ったところを拾ってもらい、雑用を……」 「じゃあ別に帰る必要なんてないだろ?雑用が一人いなくたって誰も気づかないよ」 ……グサっと来た。それは確かにそうなんだけど。 「でも、いろいろ恩があります!私にはあそこで働く義務があるんです」 するとボリスは左の瞳をうっすら細くして、 「そう?あんたさ。塔のことを話すとき、ものすごく、うかない顔をしてるよ」 ……心臓がドクンと鳴った。 チェシャ猫は全てを見透かすように、私を見ている。 3/6 続き→ トップへ 短編目次 長編2目次 |