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■三月ウサギと小さな痛み2

「…………」
暗闇の中、そっと目を開ける。最初は視界がきかなかった。
やがて暗闇に目が慣れると、部屋の様子が分かった。
どこかで見たような一室、閉められたカーテン。ベッドサイドに座る……
――エリオット!?
思わず起き上がろうとして、ひどい頭痛にうめく。
ベッドサイドに座って、なぜかうなだれているのは、間違い無くエリオットだ。
エリオット=マーチ。
ブラッドから最も信頼され、本人も誰よりブラッドに心酔するナンバー2。
彼にとってブラッドが全てだけど、発言権は最も大きい。
何とか説得すれば、エリオットがブラッドに話を通してくれるかも知れない。
そうすれば、ブラッドも恐ろしい考えを改めて変えてくれるだろう。
――エリオット、あなたからも説得して下さい。ブラッドが恐ろしいことを……。
そこまで言おうとして、私は自分の口をおさえる。

声が出ない。
声がかれたとか、そういうことではなく、言葉が出せない。

馬鹿みたいに口をパクパクさせ、必死にエリオットに訴えるけれど何一つ出なかった。
そうして、うなだれていたエリオットがようやくこちらを向く。
いつもピンと立ったウサギ耳は情けなく垂れている。
会合時のスーツ姿だけれど、ジャケットやネクタイ、ベルトは外している。
前を軽く開けたシャツとズボンだけというラフな格好だ。
けれど少し離れたテーブルに置かれた銃は、暗い室内でも分かるほど磨かれている。
――エリオット、それなら何か書くものを……
こうなったら筆談で訴えるしか無いと思い、起き上がってベッドから下りようとした。
「ナノ……!」

抱きしめられ、唇が重なった。

「……っ?」
一瞬、何が起こったか分からない。
けれど戸惑うこちらをよそに、エリオットは舌をねじこみ、絡ませてきた。
「……っ……っ」
ようやく我に返り、必死に首を振る。けれどウサギの力には容赦が無い。
私が混乱して、ほとんど何も出来ないのを良いことに口内を舌で蹂躙する。
「…………っ!」
舌にかみつけば良かったのだけど、そんな余裕はない。何よりエリオットの力が
強すぎ、折れそうなほどに抱きしめられ、頭もろくに動かすことが出来なかった。
――エリオット……痛い……!
それは本物の激痛だった。
抱きしめられすぎて痛いとか、それとは別の痛み。
だけど声が出せず、訴えることが出来ない。
涙がボロボロこぼれ、痛みで気絶するんじゃないかと思った頃、やっと相手の力が
緩んだ。私は震えながら、激痛が遠のくのを待った。
エリオットは、腕の中で泣きながら息を整える私をじっと眺めていた。
やがて私が荒く息を吐き、少し大人しくなると、
「ナノ……やっぱり嫌だよな。俺みたいな男と……」
「……っ」
もう一度キスをされ、身体が強ばる。
馬鹿な私にもさすがに分かってきた。
ブラッドの命令で、私が寝なければいけない相手は……。
「すまねえ。でも一度だけ……どうしてもあんたが欲しいんだ……」
再び腕の力が強くなり、私は再度の痛みに顔をゆがめた。
――痛い、エリオット。本当に離して……!
でもエリオットは勘違いしているらしい。
「格下の俺に抱かれるのが嫌だってのは分かる。
でも今度の任務は絶対に失敗出来ねえんだ。そんなとき脳裏にあんたの姿がチラつき
でもしたら、俺は敵陣に突っ込むのを躊躇しちまう……それだけはダメなんだ……」
オマケに一番ひどいアザのあたりをつかまれ、一瞬呼吸が止まる。
けれど声は出ない。
「一度だけだ。優しくするから……」
そう言って、痛みに震える私をベッドに押し倒した。

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