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■お野菜パーティー・下

パーティーもそこそこ進み、料理の皿はほとんど空になった。
エリオットは鼻歌を歌いそうなほど上機嫌だった。
「ん?エリオット?私の顔に何かついてます?」

エリオットはしばらく私をじっと見て、考える顔になり、
「俺、これから夕飯はこの小屋で食おうかな……」
「へ?」
「だってそうだろ?こんな美味いニンジン料理が食えるなら、屋敷よりここが……」
「え……それは、いえ、嫌なワケじゃないんですが……」
いきなり言われて戸惑いが先に出る。
夜はお茶会だってあるし、こっちに入り浸っていたら屋敷全体の迷惑になる。
「止めた方がいいですよ。いえ頼むから止めてください!」
私が反対するなんて思っていなかったらしく、エリオットは不機嫌な顔になる。
「いいじゃねえか。おまえのニンジン料理をすぐ食べたいんだ、俺は!」
いえ単品ダイエットでもするつもりですか、あなた。
ビタミンA過剰症か、栄養失調を引き起こしますがな。

「そうだよ、止めておきなよ、ひよこウサギ」
「馬鹿ウサギは大人しく巣にこもってな」
栄養問題に関心があるのだろうか。ディーとダムも同調してくれた。
するとエリオットは瞬時に笑顔を消し、ギロリと双子を睨む。
「俺に居座られちゃ困るんだろう?言っておくが横取りする真似をしたら……」
ん?声にモノすごい殺気が。まだ食卓にニンジンでも残ってましたか?
でもお皿は全て空っぽになっている。首をひねっていると
「地位を笠に着て、好き勝手してたひよこウサギよりマシだろう?」
ディーが含めるような物言いをし、チラッと私を見る。
え?え?私、こういう無言の合図は全く理解出来ないんですが。

「それに一人より二人。多い方がいいに決まってるだろ?ね、ナノ」
ダムにも、なぜか話をふられる。
「は?はあ。それはまあ、多い方がお得ですよね」
よく分からず、首をかしげながら言うと、
「ナノっ!」
「え……え!?」
エリオットに怒鳴られた。す、すごい殺気が私の方に。
いったいいつご機嫌を損ねたかと、椅子の上で縮み上がっていると、
「ほら、またナノをいじめようとしてるだろ、ひよこウサギ」
ディーに言われ、エリオットがぐっと、言葉につまる。
「ナノが怯えてる。乱暴で束縛ばっかりする恋人って最悪だよね」
「俺は乱暴も束縛も、もうしねえよっ!」
エリオットはなぜかムキになっている。今回の口論は双子が優勢のようだ。
……にしても、何のネタでケンカしてるんだろう。私なのかな?でも何で?
「そう?ボロ小屋に閉じ込めて、何時間帯も働かせてさ」
何だか口ゲンカのネタにされてるっぽいのは分かった。
「ちょ、ちょっとダム。私はむしろここにいられるのが嬉しいですよ?
というか、私の苦労をねぎらって下さるなら、野菜泥棒を止めてくれた方が……」
憎めない双子だけど、やっとのことで実をつけた小玉のスイカを取られたときは、
さすがに殺意がわいたなあ。

「ねえナノ。僕らの方がいいと思わない?
二人で倍もお得だし、欲しい物は何でも買ってあげる。ね、何が欲しい?」
スーパーの宣伝文句のような言葉を挟み、ディーが向かいのテーブルから、私の手を握る。
「おいっ!おまえらっ!!」
エリオットが激昂して怒鳴る。でも無視して、私の逆の手をダムが取り、
「お金を無駄にするのは論外だけど、ナノだけは特別にしてあげる。それに、
子どもだから学習能力は高いよ。ひよこウサギや騎士より将来有望だと思わない?」
「……は?はあ、どうも。ええと、あの、手を離してほしいんですが……」
言いながら首をかしげる。
もしかして双子は農業従事希望者なんだろうか。
そういえば作物が成っていても成ってなくとも、最近ちょくちょく姿を見せるし。
まあ、斧もクワも似たようなものだしなあ。後継者不足の昨今、今どきの若者が、
農業に興味を持ってくれるのは非常にありがたい。

「それじゃあ、今度一緒に、畑に種でもまきますか?
ちょっと乾いた場所にお水をまいて、土をならして種を押し込むんです」
とりあえず、初心者は種からだ。すると双子はニヤリと顔を見合わせ、
「ふふ、兄弟。さっそくナノに誘われちゃったよ。若さの魅力って怖いね」
「顔なしだから例えが泥臭いけど、お誘いはお誘い。断れないよね」
そっかなあ。客観的な種まきの説明だと思うけど。
あと神聖な農業を、泥臭いとか言わないの。
「てめえら……」
と、ゆらりと立ち上がるエリオット。
そういえば怒ってたんだっけ。私はゴボウスープを飲みながら、
「どうしたんです?エリオット。ニンジンをご所望でしたら、ちょっと畑から……」
私の言葉がブツ切れた。
エリオットの手に、光る銃口が見えたのだ。
「いい加減にしやがれっ!ナノは俺の女だって言ってんだろっ!!」
「わ……ちょ、ちょっと待って……っ!」

必死でテーブルの下に避難した直後、頭上で壮絶な銃撃戦が始まりました……。

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