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■お野菜パーティー・上

「うーむ」
畑から引き抜いたニンジンはゴロリと太く、美味しそう。
「うーむ……」
私はうなる。ニンジンが出来た。嬉しすぎて、どう反応すればいいのやら。

「ナノ、やっとニンジンが出来たんだ」
「褒めてあげたいけど、ひよこウサギが喜ぶと思うと複雑だね」
畑の向こうから、イチゴだのミニトマトだのをつまんでいた双子たちが来る。
私の頭を撫で、ついでにお尻まで撫でて来る双子ども。
「はいはい」
その手をパチンと叩き、私は空を見上げる。
天気は快晴。帽子屋屋敷の畑は平和だ。

…………
あれから帽子屋屋敷に戻って、また静かな生活が戻って来た。
お世話になった双子には、余った野菜の処分……コホン、お野菜食べ放題を勝手に
やってもらっている。
でもスーツ姿で畑に入らない方がいいと思うんだけど。土がつきますよ?

それと私の農業レベルは上がりつつある。
留守の間、畑を見てくれた縁で、近隣の農家の方々とお知り合いになったのだ。
そして素人菜園にプロのアドバイスをいただけた。
その指示に従い、肥料や間引き、水のまき方を変えてみたら、あら不思議。
見違えるように畑が活き活きしてきた。
ニンジンもその成果の一つだった。

「いいから、トマトでも食べてて下さい。イチゴも甘くなってきたでしょう?」
しっし、となおも伸びてくる双子の手を叩き、ニンジンの収穫を再開する。
「でも甘そうなやつに限って、鳥や虫に食べられてる。もったいないよ。
いっそビニールハウスを建てたら?」
バケツにはった水で、イチゴを洗いながらディーが言う。
「うーん。そこまで本格的には……それにビニールハウスって高いんですよ?」
「簡単簡単、ナノが上目遣いにお願いしたら、ひよこウサギは何でもするよ」
真っ赤なトマトにかぶりつきながらダムが意味ありげに笑う。
「はは……」
私は麦わら帽子をかぶりなおして聞き流すことにし、ニンジンの収穫を再開する。
――さて、エリオットにこのニンジンをどう提供しますか……。
以前にご説明したように、私の料理レベルはゼロ。いえマイナスなのである。
行く先にあるのは絶望の二文字のみ!

でも、そんな自分がとてもワクワクしていることを自覚する。
こんな日常が戻って来たことが、この上なく嬉しかった。

…………

…………

そして、それから少し経った時間帯のこと。
「では皆さん、どうぞお好きに召し上がって下さいな」
私は三人に頭を下げた。
小屋にはエリオット、ディー、ダム、という豪華な顔ぶれがそろっていた。
暖炉の炎がパチパチと燃える、コテージの暖かい夜だ。

…………
そしてエリオットは早速、私の『料理』をひたすら絶賛する。
「美味い!本当に美味いっ!おまえは料理の天才だぜ、ナノ」

「…………」
『…………』
私は使用人さんの作ってくれたサラダを食べながら無言。
一緒に食卓についている双子も、野菜プディングやグラタンを食べつつ無言だ。
「前に料理が出来ないとか言ってたけど、どこがだよ!こんなに美味いものを
作るじゃねえか!美味い!本当に美味いぜ、おまえは天才だ!ナノっ!」
『…………』
やはり三人の沈黙が続く。

…………

さて、この三人が私の小屋に集まっている理由は何か。
この前助けていただいたお礼をエリオットおよび双子にするために『ニンジンが
出来たよおめでとう』パーティーを開くことにしたのだ。
資金源がエリオットなのはさておき……。
で、裏口の使用人さんに頼んで、畑のお野菜を使った料理を作っていただいた。
そして熱々のポトフからパンプキンスープまで、聖誕祭のような豪華なメニューを
仕上げていただいた。

なのに中核たるエリオットのニンジン料理のみ、私の自作だったりする……。

なぜならパーティーを開くことを説明した際エリオットが譲らなかったから。

『ニンジン料理だけは、おまえの手作りだ!でなきゃ金は出さねえ!』

……資金源に宣言されては、承諾せざるを得ない。
エリオットが猛烈に私の手料理を希望したのだ。
そのため、急きょニンジン料理を作った……んだけど。

1皿目→ニンジンの乱切り(皮ごとブツ切りにしただけ)
2皿目→ニンジンスティック(長さも太さもバラバラ)
3皿目→ニンジンのすり下ろし(文字通り)
4皿目→ゆでニンジン(ゆですぎてぐしゃぐしゃになっている)
5皿目→ニンジンの皮(ニンジンスティックの余り。もんのすごく分厚い)

……これ、料理というより、『エサ』じゃなかろうか。

けれど、三月ウサギはそれらを凄まじい勢いで完食し、
「美味い、美味い……ああ美味かった。ごちそうさま!」
至福の息をつき、きれいになったお皿を名残惜しそうに見るのだ。
そして私に最高にキラキラした笑顔で、
「ありがとうな、ナノ。おまえは料理の天才だ!」
「……お粗末さまです」
厨房さん作の、さつまいもシャーベットを食べながら、私は複雑な顔で言う。

……エリオットじゃなかったらイヤミかと殴り飛ばすところだ。

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