続き→ トップへ 短編目次 長編2目次

■黄昏1

※R12
※少しでも不快に感じられましたら、すぐにページを閉じて下さい

時は夕暮れ。空はあまりにも美しいあかね色だ。
私は草むらに座って、遠くを見つめている。
遠くでクジラの鳴き声が聞こえ、なぜか郷愁を誘われた。
そして物思いにふける私に、優しい騎士さまの声がかけられる。
「終わったよ、ナノ。もう大丈夫だ」
「……ありがとうございます、エース」
振り向くと、夕暮れに劣らず赤い騎士がいる。
そして夕暮れのような色になった剣を草の葉でぬぐうところだった。
彼の足下も、同じ色に染まっている。
「…………」
色の源からは目をそらす。でも騎士は容赦がない。
「見ないようにしても無駄だよ、ナノ。
俺は刺客を殺した。君は巻き添えで襲われたのを、俺に助けられた。だろ?」
「……そうですね。ありがとうございます、エース」
草むらに私の長い影がのびる。その影を騎士の影が覆う。

「……好きだよ、ナノ」

私は夕陽と、動かない人たちを背に、エースにキスをされた。
とても甘く優しい口づけだ。
けど私は、騎士の力がわずかに緩んだ隙に身を離した。
「あれ?冷たいなあ、ナノ。繊細な男心を傷つけないでくれよ」
「ごめんなさい。でも余所者だから、こういう場所は、慣れないんです」
地面に横たわるものからは、やはり目をそらしてしまう。
エースは逆に、彼らをゴミのように足でどかしながら、
「弱いな、君は。今からこんなことじゃ、ハートの城でメイドなんて出来ないぜ?」
「…………」
嘲るような物言いに、反論が出来ない。
あそこは処刑が日常茶飯事の場所だ。
「嫌そうだね。やっぱり俺のメイドは止めて、マフィアの巣窟に帰る?」
「いいえ」
出来るわけがないと騎士も知っていて、楽しそうに聞いてくるのだ。
そして、私の声がふいに険しくなる。
「……エース、止めてください」
騎士の手が、強引に私の胸に触れたからだ。
「いい顔だね、ナノ。悪いけど何か……我慢出来なくなっちゃった」
「エースっ!」
騎士の緋色の瞳にそんな切羽つまったものはなく、むしろ余裕にあふれている。
けど長身の男性に抵抗出来るわけもなく、私は草むらに押し倒された。
真横には……さっきまで動いていた人たちが見える。
「エース!本当に止めて!冒涜(ぼうとく)行為です。絶対に……」
「ここじゃ、時計は何よりも軽いものだぜ。壊れてもユリウスが直してくれる」
「……っ」
キスをされ、手が遠慮なく、私の身体に触れ始める。
「嫌っ止めてっ!」
暴れた。いや、暴れたつもりだった。
でも騎士は笑いながら、私の意に沿わないことを強制する。
布地を引きちぎるような強さで前をはだけられ、生温かい舌が胸を這う。
「エース……っ」
「そっかそっか。悪かったよナノ。なら次は俺は逃げることにする。
取り残された君は、刺客の奴らに好きにされてくれ」
「…………」
残酷な物言いに、私の抵抗が止まった。それをエースがせせら笑う。
ハートの騎士が助けてくれたから、私は無事だった。
もし彼が負けるか逃げていたら。下品な妄想が現実になるかはともかく、最終的に
私の心臓が止まることだけは、間違いない。
それでも時計が止まるところを見たくないというのは、ワガママなんだろうか。
平和を貪る国からやってきた、世間知らずのお嬢ちゃんの戯れ言なんだろうか。
自己嫌悪に浸っていると、私の下を脱がしながら紅い騎士が、
「ふーん。そこまで止まった時計を大事にするっていうなら、あいつらにサービス
してあげたらどうだ?」
「え……?」
「ほら、足を大きく開いて」
「……っ!!」
ハートの騎士のしようとしていることに気づき、背筋が凍りつく。
全て脱がされ、強引に向かされたのは……動かない人たちが横たわる場所。
「止めて……っ!!!」
悲鳴が出た。誰にもとどかない叫びが。目尻から涙がこぼれる。
けど騎士は手袋ごしに私の茂みに触れ、深くに侵入する。
「う……痛っ……」
今までとは違う強引なやり方に、軽い痛みを感じ、わずかに正気に戻る。
そして大したことはないんだと自分に言い聞かせた。
――落ち着けナノ。もう動かない人たち。何も見えず、聞こえない……。
あれは石だ、草だ、時計になる前の姿だ、と繰り返し、愛撫に耐える。
「そうだよ、ナノ。ここでは命は軽い。
あれは紙くずと同じ、ただのカードの一枚だ」

4/8
続き→
トップへ 短編目次 長編2目次


- ナノ -