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■クローバーの塔殺人事件5

「ナイトメア様!」
能天気に笑いながらナイトメアが入ってきた。手には小さなカップを持っている。
「やっと薬を持ってきたよ。眠りネズミには後でたっぷりと仕置きをするからな」
ナイトメアは普通に私が見えるらしい。
まっすぐ私に手をふる。
――え?何がありましたっけ?ていうか、私、こうなってるんですけど!
「ああ、眠りネズミだろう?君を巣に連れて行こうとして、珈琲に眠り薬を入れよう
としたら、多量に盛ってしまい、特殊な仮死状態になってしまった」
「仮死状態!?そ、そういえば瞳孔反射までは確認していなかった……」
グレイが慌てて私の身体に駆け寄るけど、そのまえにナイトメアがカップをあおり、
「眠りネズミの薬だから、後遺症は特にないだろう。今起こしてあげるよ」
そして私の身体を抱き起こし、唇に唇を重ねた。

その瞬間、私は何も分からなくなった。

…………

目が覚めると、私の店の天井が見えた。ベッドに寝かされていたらしい。
「起きた?」
なぜだかエースが私の髪を撫でている。
恐ろしいことに、彼には似合わない優しい目で。
「え、エース……何であなたが……」
「つきそうと言って聞かなかったんだ。まあ、変な真似はしていないから安心しろ」
後ろからユリウスが顔をのぞかせたので、私はちょっと安心する。エースは、
「ね、覚えてる?」
「え?何をですか?」
エースはやっぱり優しい声。いい加減、気味が悪くなってきた。
「おまえが眠りネズミと珈琲を飲んだ後のことだ」
ユリウスが補足してくれた。
あ、そうだ。クローバーの塔でピアスにばったり会って、ちゅうしようとか、家に
遊びに来てとか散々誘われ、断った。
『それなら、一緒に珈琲飲もうよ!』
と言われ、談話室にポットを持ち込んでじっくり飲むことにした。
そしたら、急に上手くしゃべれなくなってピアスに助けを求めたら、
『ちゅ、ちゅう!ど、どうしよう、量が多すぎた……ナイトメアーっ!』
とピアスが突然言って逃げ出した。何のことかとピアスを追いかけようとして……
「……よく覚えてません」
あとは気づいたらベッドの上だった。
そう言うと、エースはニコニコして私の頭を撫でる。
「そっかそっか、覚えてないのか。でもいいや、おかげで君の本心が分かったし」
本心?珈琲飲んだだけで浮気と思ったとか?エースが?
気味悪いほど笑顔が優しいのは怒りの裏返しとか?
でも今に限っては、なぜか彼の心からの笑みな気がする。
そのままエースの顔が近づき、私の唇に……
「ゴホン!」
ユリウスが咳払いし、私は慌ててエースを押しのける。
エースは笑いながらも引いてくれた。本当に何があったんだろう。
「言っておくが、いちゃつくならもう少し後にしろ。すぐに他の客が来るだろう」
「他のお客さま?」
「ああ、トカゲはナイトメアをしばき終わるだろうし、帽子屋やチェシャ猫も、
眠りネズミへの制裁をすませた頃だろう。次にこちらに乗り込んでくるはずだ」
すると私の代わりにエースが返事をした。
「大丈夫大丈夫、俺はかまわないし、ちゃんとナノを守るぜ」
そう言って、今度はベッドに乗り上がり私に覆いかぶさる。
ギシッと一人用のベッドが鳴り、私は慌ててユリウスに救いの目を向けると、
「まったく……仲良くやるんだぞ。ナノ。何かあったら私に言え」
寂しそうな声で言われた。
「え?いえ、今現在、何かにあってるんですが……!」
「のろけるんじゃない……それと、幸せにしてやれ。エース」
「おう!またな、ユリウス!」
「え?ちょっと!ユリウス!?」
なぜかユリウスは押し倒されてる私を助けることなく出て行った。
混乱していると、エースが今度こそ私に唇を重ねる。
「ん……んむ……」
舌を押し返そうと四苦八苦していると、唾液の絡むいやらしい音がし、顔が赤くなる。
けれどエースは珍しく私をからかわず、
「俺を選んでくれて本当に嬉しいぜ、ナノ……大事にするから」
「は?ええと、私は何をしたんですか?あなたを選んだって?」
そう言うと、エースは私の頬に手を這わせながら、
「覚えてない?君がネズミ君の薬で倒れていたとき、変な夢とか見なかった?」
エースに身体をまさぐられながら、私は何とか思い出そうとして、

「あ、少し思い出しました。エースに仕返ししたいと思って、みんなに
『エースが犯人ですよー!』って必死に訴えてたんです。本当に変な夢で……」
ていうか、行きたいって何だろう。
しかしその前にエースの手は止まっていた。

「…………」

そして沈黙。

果てしない沈黙。

「ま、いいか。選んでくれたことに変わりは無いし」

エースはあははと笑って、また手を動かし出した。
「ちょっとエース!昼間からっ!」
必死に抵抗するけれど騎士は聞いちゃいない。やっぱり笑っている。
あと、外が何だか騒がしくなってきた。
『開けてくれ!見舞いに来た!あと騎士だけは選ぶべきではない!』
『お嬢さん。男心を振り回した対価を払ってもらおうか!』
『ナノ!君の存在を伝えてあげたの俺だよね!お礼にデートしてよ!』
ドンドンドンと扉を叩く音と……扉がギシギシと破壊寸前になる音。
でもエースは全く手を止めず、着々と私を脱がしている。
助けは入りそうだけど、予期せぬ大騒ぎになりそうな。
――人騒がせな人たちですねえ……。

扉が完全に破壊された音と、エースが最後の一枚を脱がした音に、もう私は諦めて
ため息をつく。
そして直後の混乱から少しでも現実逃避しようと、目を閉じるのであった……。


追記。
その後、ユリウスに『ああいう写真を撮っているときにピースする奴があるか!』
となぜかガミガミ怒られた。
どうもユリウスが心霊写真を撮ったらしい。
でも何が何だかよく分からず、叱られまくるしかなかった……。

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