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■限界3

※R18

小屋の中は薄暗い。私は気分が悪かった。
――ダルイです……。
ほとんど食べていないのに、無理に無理を強いられた。
おまけに夕暮れの涼風の中で、川辺で身体を洗った。洗うしかなかった。

……で、私は高熱を発した。体温計がないから何度か分からない。
でも絶対安静を必要とする程度には高熱だと思う。

けどまあ、奉仕を強いられている。

「はあ……はあ……ナノ……っ」
三月ウサギはベッドに私をうつぶせにさせている。
そして腰をしっかりと抱き、後ろから激しく貫いてくる。
「エリオット……お願い、ですから……」
エリオットは返事をせずに、欲望に染められた獣の声を出し、また打ちつける。
「…………」
私は枕に顔をうずめ、こぼれる涙を隠す。
深くを抉られ、上にも下にも何度も何度も放たれ、叫び声もかれてしまった。
制止も懇願も意味をなさず、辛さと高熱を訴えても、押さえつけられ強行された。
「ナノ……好きだ……ああ……」
もう、この言行不一致にはツッコミも出ない。
つぶす気かと思うほど胸を激しく愛撫され、かれた悲鳴が出た。
あと動物ゆえの愛情表現なのか、肩口に噛みつかれ、少し液体が出ている。
……早く終わらないかな。
熱が辛くて、私は揺さぶられるままベッドにぐったりしている。

エリオットが着替えだか雑用を終え、戻ってきたときには、夕暮れの冷たい風に当て
られ、私は熱を出していた。
でも、エリオットは看病してくれるでもなく、奉仕を免除してもくれるでもない。
いつもどおり。いつもどおりだった。最初は小屋の外の壁を背に強要。中に入っても
暖炉前だったり床に倒されたり、その後、やっとベッドで激しく責め立てられた。
私のパンとスープがダメになったのを見ているはずなのに、それには一切触れない。
――エリオットは……もっと優しい人だったのに……。
「ナノ……っ」
エリオットが、私ではない私に呼びかける。

「はあ……はあ……っ」
エリオットが身体を震わせて、私の中に何回目かの熱を放つ。
熱っぽい私の背中に汗ばんだ長身が覆いかぶさり、その体重に私はさっさと潰れて
しまう。赤い液体の嫌な匂いがするけど、それはどちらのものなんだろう。

…………
ベッドから大きな寝息が聞こえる。
私はいつものようにエリオットが寝入った隙を見計らってベッドから抜け出した。
けど予備の服なんてない。
仕方なく、床に散らばった濡れた服を取る。寒い。でも何もないよりマシだ。
あと何かお腹に入れないと。ジャガイモでも焼けないか。
「…………」
と、思ったときに、ついに暖炉の炎まで消える。
あたりに広がる暗闇。
何より寒い。熱がますます上がる。
喉にきたのか、咳の衝動がわき上がる。
エリオットを起こさないよう、必死に小さく咳をした。
彼のそばに戻れば暖は取れる。あわよくば不調を移せるかも。
でも一緒にいたくはない。もう心音がどうとかそれ以前の問題で。
寒い、寒い、寒い。
身体のあちこちが痛む。お腹も空いているし、のども渇いた。
私は身体を両手で抱え、ほんの少しでも暖の残りを取りたいと暖炉に近寄った。
でももう空気は冷え切っている。
「…………っ」
それ以上は座っていることさえ辛く、横になった。
寒い。でも熱い。苦しい、痛い、辛い。
――頑張らないと……頑張らないと……。
エリオットは少しの時間帯、ここにいるんだから。
私は暖炉前に丸まった。これがまた良くないんだ。
エリオットが起きたら、また責められ、ベッドに引きずり込まれるかもしれない。
――畑に、行きますかね。
何だかんだで、水まきと雑草取りが終わっていない。
雨の降らない世界、水やりは重要だ。
もっと頑張らないと……。

でも何となく思う。そろそろ限界だ。

…………
扉を開けると、風がまともに当たり、服の水分が冷たさを増す。
私は背中を丸め、咳き込み、今にも倒れそうな足を叱りながら畑に向かう。
ここ最近は頻繁にエリオットが通うから畑に手をかけられない。
放置された畑は少しずつ荒れ始めていた。

「…………」
ニンジン畑の周辺が、またひどい雑草だ。
不思議の国は作物の生長がすごいけど、それは雑草の生長のすごさも意味する。
雑草が多ければ養分を吸い取られ、まともに作物は育たない。
私は収穫可能そうなニンジンを一本引き抜いてみる。
「…………」
ひょろひょろで、しかも指くらい小さい。根割れもし、病気で変色している。
雑草と一緒にそこらへんに捨て、区画を移る。
もうニンジン畑はダメだ。種をまき直して再生をはかるしかない。
お茶の木の方へ行く。
こちらは大変な中、手をかけているだけあって、どうにかまともに育っている。
均整に生育した枝が、四、五枚の葉をつけ、やわらかい新芽も……。
――あれ、これ、もしかして……。

そのとき時間帯が変わって明るくなってきた。

太陽の日差しが畑に降り注ぎ、長い影を作る。
私はもう一度お茶の木をよく見た。
やわらかい新芽がピンと天を指し、葉層もしっかりしている。遅れ芽もない。
――これは……。
冷え切った身体も、高熱も、そのときだけは勢いを後退させた。

お茶の木が収穫の時期を迎えた。
本当に長い時間帯かかった。
でもその成果が出た。
茶摘みを開始しなくては。

私が我を忘れ、そのお茶の木の一芯二葉を摘み取ろうとしたとき。
脇腹に何かが触れた。気がした。
構わずに摘もうとしたけど、それ以上動けない。
変だと思って見下ろすと、脇腹が何か赤い液体に染まっていた。

――あ。撃たれた。

と思っていると、そのまま土の中に倒れてしまう。
見えるのは私が長い時間帯手をかけたお茶の木たち。
そして銃をしまい、不機嫌な顔でこちらに歩いて来る三月ウサギだった。

これも私が悪いんだろうか。エリオット以外のものにうつつを抜かすから……。

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