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■狂気2

「ああ、その手がありましたね!」
エリオットの言葉に、私は関心してポンと手を打つ。

私を名ばかり管理職……じゃない『名前だけNO.2の女』にするのか。
「エリオットが形だけでも私をNO.2の女と宣言すれば、それだけで効力を発揮
しますよね。誰かが私に手出しをすれば、NO.2の女に手をつけたということで
制裁が行く。私は安全で、今まで通りの生活も出来る。一石二鳥三鳥ですね」
私はうんうんとうなずく。さすがボスの腹心。突飛なアイデアだ。
「うーん、でも無理がありすぎですよ」
チラッとエリオットを見上げる。彼はまだ感情のない瞳で私を見ている。
「偽装結婚みたいなもんです。形だけの情婦なんてすぐバレますよ。エリオットが
私の小屋に通わなければ皆、怪しいと思いますし、私も情婦の演技なんて無理です。
それに期間がどれくらいなのかも分からないのに私だけと定めて、他の女性を相手に
しないなんて、エリオットには無理でしょう?」
「浮気はしない。おまえ以外の女は、見ない」
「エリオット」
私は立ち上がり、エリオットの胸に手をかける。
ビクッとするウサギの身体。かすかに伝わる時計の音。
「心配性すぎです。そりゃ普通と比べて出来ませんけど、そこまで私は何も出来ない
子じゃないですよ」
「ナノ……」
「ですから、そんな全身全霊で私の面倒を見なくても大丈夫ですよ。
帽子屋屋敷を出ても、ときどきご挨拶にうかがい……」
「言ったはずだ!帽子屋領を出るのは許さねえ!」
……ええと、怒っている。何なんだろう。仕事で失敗でもしたのかな。
「いえ、エリオットの名誉のためでもありますよ。ほら、粗末な丸太小屋で野菜を
作ってる顔なしのガキが情婦とか……それ絶対あなたが笑われますって」
「笑う奴は俺が全て撃つ!」
「えと。ど、どうも……」
私はエリオットの妙な気迫についていけず、少し後じさりする。
するとなぜかエリオットが一歩私に近づく。
「…………」
もう一歩後ろに下がると、さらに一歩近づかれる。
「…………」
怖い。
いつかの草原で見たエリオットの目を思い出す。
エリオットの目は、狂気を宿した赤を経て、あのときのような黒をにじませていた。
それが怖くてさらに下がり、ついにテーブルにぶつかる。
でもエリオットはまだ近づいてくる。
そして服と服が接するほど近くまで来られた。
マフラーに引っかけた、枯れた麦の穂がやけにハッキリと見える。

「形だけのつもりはない……正式な俺の女にする」

「え……」

ちょっと待て。これだから男の人は、とため息をつく。
「……いえ、それ、もっと問題があるでしょう。あなたは男だからいいかもしれない
ですけど、私は嫌ですよ。いくら守ってもらうためだからって、その代わりあなたに
抱かれるんじゃ本末転倒というか、意味が無いですよ」
極力、軽い口調で言う。
でも実際には言葉がかすれ、冷たい汗が頬を流れている。
「……俺に抱かれるのは嫌か?」
「本意では、ありません」
「嫌なのか……?」
「そう言い換えて遜色はないかと」
「…………そうか」
「えと、マフィアは嫌なんです。あなたは命の恩人で、大変尊敬していますが……」
私は扉の方をうかがう。話しながら、こっそりと足をそちらの方向へ……

「っ!!」

覚えのある衝撃が来たかと思うと、私は天井を見ていた。
エリオットに押し倒されたのだとすぐに分かった。
昼間の男より、もっと大きな身体にのしかかられ、左右に両手をつかれ、まるで檻に
とらえられた気分になる。
「ん……っ」
逃げようとする前にエリオットの顔が近づき、口づけられ、舌をねじこまれた。
「……っ!……!!」
下から両肩を何とか押し上げようとするけど、ビクともしない。
「ん……あ……」
それどころか逆に抱きすくめられ、強く身体を密着させられる。
膝が両足の間に割り込み、足でこちらの下半身を何度も、痛いくらいに刺激される。
「……っ!ん……!」
「……はあ……」
エリオットはさらに密着し、下半身を押しつける。十分な熱を持ったそこを。
「げほ……!エリオット……止めてください!マフィアは嫌いなんです!
NO.2のあなたなら、女性はいくらでもいるでしょう!?」
やっと解放された口で必死に叫ぶ。
悪夢だ。ボスでは無くNO.2だから安心していたら、そのNO.2に目をつけられた。
冗談じゃ無い!
もうマフィアの女なんて絶対に嫌だ!
「やめてっ!離して、エリオットっ!!」
でもエリオットはずっと押さえていた堰があふれたようだった。
私の襟をはだけさせ、性急な仕草でボタンを外していく。

「ダメだ……おまえ以外の女はダメだ!おまえじゃないと……!!」
「エリオットっ!」
私の叫びに恐怖が混じり始めていた。

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