続き→ トップへ 短編目次 長編2目次 ■収穫・下 窓の外は、いつの間にか夜の時間帯になっていた。 「もう少しじゃない?兄弟」 「いや、さっきは生焼けだったじゃないか、もう少し待とうよ、兄弟」 暖炉の炎の中に投じられたサツマイモを見ながら、双子はワクワクと語り合う。 「待ってください。私が見ますから」 双子をどけ、暖炉用の長い火箸でサツマイモをさす。 うん、中まで気持ちよくスーッと通った。 私は火箸のままサツマイモを引き上げ、テーブルの皿の上に置く。 「僕が食べるよ!」 「兄弟はさっき食べただろ?今度は僕だよ!」 たちまち双子が先を争いはじめる。全く、大きくなっても食べ盛りだ。 「ケンカしなくても、まだありますから、はいどうぞ」 二つ目をテーブルに置くと、どうにか争いは収まる。 「それで、おまえは馬鹿ウサギに拾われたんだって?」 ホクホクの焼きイモにかじりつきながらディーが言う。 「馬鹿ウサギが何度かおまえのことを話してたよ。屋敷に入れてやりたいって」 ――エリオットに続き、あなたたちまで私を『おまえ』呼ばわりですか……。 とはいえ、エリオットがそこまで私のことを考えてくれたと、じーんとする。 スープをかき混ぜながら、私は言う。 「エリオット様は、もう私に関心をお持ちではありませんよ。 私はご支援で何とかやっていますし、元々世界が違う方です」 温めたスープを双子に渡すと、双子がそれを飲む間だけ沈黙が下りる。 そして器から顔を上げ、双子は私を見た。 「忠告じゃ無いけど、馬鹿ウサギがここに来ないなら、どこか移ったら?」 「ここは屋敷からも別邸からも離れてるし、叫んでも誰も来ない」 そして二人で顔を見合わせ、うなずく。 「女の子がオオカミの巣に一人で住んでるみたいなものだよ」 「さっきみたいな馬鹿は、間違い無くまた来るね」 「…………」 さっきの悪夢を思い出し、鳥肌が立つ。 それでも銃は持ちたくない。かといって自分の安全を後回しにする気もない。 「出来ればここに住み続けたかったんですが……」 畑が近いし、何だかんだ言って愛着がある。 この椅子もテーブルもあの窓も、腐りかけていたのをエリオットが直してくれた。 暖炉もすっかり使い慣れて、火をつけるのもずっと早くなった。 「ダメダメ。僕らが来たのは本当に幸運な偶然。次は襲われちゃうよ」 私は腕組みをする。 「鍵とかで自衛するとか、隠れ場所を作るとか、それでどうにか出来ませんか?」 「鍵なんて銃で壊しちゃうし、隠れたって、畑に火をつけるって脅せばいい」 うーん、そう言われたら、確かに隠れ場所から飛び出しちゃいそうだ。 「どうしても住みたいなら銃で自衛するしかないね」 「銃の性能によるよ、兄弟。ナノはどういう銃を持っているの?見せてよ」 すっかり餌づけされたのか、双子は親身になってくれる。私は言う。 「銃は持っていません。あまり人を撃ちたくないので」 すると双子はうなずき、 「だよね、やっぱり撃つより切り刻む、だよね」 「分かってるじゃない。で、どんな刃物を持ってるの?見せてよ」 「いえ、その、武器全般を持ってませんよ。そういうの駄目なんで」 私が言うと、双子はポカンと口を開けた。 「じゃあどうやって身を守るのさ!」 「どうやって敵を攻撃するのさ!」 「いえ、攻撃はしませんよ」 うーん確かに八方ふさがり。 使用人さんたちが寝泊まりする離れに、住まわせてもらうしかないかなあ。 誰に許可をもらえばいいんだろう。空き部屋とかあるのかな。 そう考えていると、小屋の扉が唐突に開いた。 「ナノ。ひ、久しぶりだな。その、顔を見に来たぜ。 良い匂いだな。イモでも焼いて……」 ぎこちない笑顔で入ってきたエリオットが立ち止まる。 「なんだ、おまえら。何でこいつの家に勝手に入ってるんだ」 不愉快そうに双子に言う。でも双子もすぐに応戦する。 「フン、噂は聞いたよ馬鹿ウサギ。新しい女をまた撃ったんだって?」 え……なんてことを! 「いくらNO.2でも出入り禁止になるよ。何だって最近、荒れてるのさ」 「ほっとけよ。俺の女をどうしようと俺の勝手だろ?」 乱暴に言うと、エリオットは小屋の扉を指差す。 「おまえらは仕事中のはずだ。さっさと持ち場に戻れ!」 ……そういえばサボってたところを助けられたんだっけ。 すっかり忘れて、平気で農作業の手伝いをさせてました。 双子は勝ち目が薄いと思ったのか、立ち上がって渋々扉に向かう。 「二人とも、本当にありがとうございました」 私は入り口まで二人を送り、何度も頭を下げる。 双子と入れ替わりで椅子に座ったエリオットは、私の後ろで、 「おい。何でそんなにペコペコしてるんだ?何に礼を言ってるんだ?」 私は冷や汗をかきながら振り向き、 「し、収穫を手伝っていただいたんです。そのお礼を」 「ならいいけどよ。ガキども、こいつに手を出すんじゃねえぞ」 「い、いえ、お二人はそんなことは……」 と続けようとしたとき、もうディーがしゃべっていた。 「勘違いしないでほしいな。僕らが、手を出そうとした奴から助けてあげたんだよ」 「え……おい、どういうことだ!?」 「――っ!」 心臓が止まるかと思った。でも制止する前にダムも口を開ける。 「女遊びもいいけど、拾った子の面倒も、もう少し見ておくべきじゃない? こんな離れた小屋に女の子を一人暮らしさせて、ろくに様子も見に来ないとか」 「襲ってくれって言ってるようなものだよね。もう少し遅かったら……そうだ!」 ディーが顔を輝かせ、私の手を取る。 「ね、僕らが恋人になってあげようか?ひよこウサギみたいに浮気はしないよ?」 「それはいいね、兄弟。ここに来たら美味しいものが食べ放題だしね」 いや、さっきが初対面だし『普通』とか興味なさげだったでしょうが。 自家製の焼きイモをそこまで喜んでいただけましたか。 けどツッコミを入れる前に、エリオットが私と双子の間に割り込む。 「失せろ」 そしてバタンと、大きな音をたて、目の前で扉が閉まる。 双子たちはあきらめたのか、二人分の足音が遠ざかり……そして消えた。 「ナノ……」 エリオットがゆっくりと私を振り返った。 6/6 続き→ トップへ 短編目次 長編2目次 |