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■収穫・上

この世界では初めて出会う、ブラッディ・ツインズ。
トゥイードル=ディーにトゥイードル=ダム。
双子の門番だ。
「こうして、襲われてる女の子を助けることだってあるんだしね」
「仕事をサボって女の子を襲ってる、クズの使用人を始末出来るんだしね」
そう言って私を見下ろし、ニヤッと笑って見せた。

空は青空だ。
「本当に大変に誠に実に正真正銘に極めて滅法に過度に凄まじく超助かりました」
急いで小屋の外に出て、私は双子に頭を下げる。
小屋の中のものは……しばらく頭から締め出すことにしよう。
「この子、一息で言い切ったね、兄弟」
「正しくない同義語が混じってる気もするけど、気にしない方がいいね兄弟」
「それだけ感謝の気持ちを表したいんじゃないかな兄弟」
「じゃあ流してあげるのが大人ってものだよね、兄弟」
うわ、指摘されたし。あと流してませんて。
そして大人姿の双子は私をジロジロと見下ろす。
「へえ。この子が最近、顔なしたちが密かに取り合ってるって子?」
「噂は噂だね。聞いたほど可愛いってわけでもない。むしろ普通だよね?」
いえ決して可愛いと言ってほしいわけじゃないけど……グッサリきましたよオイ。
とはいえ、双子が乱入しなかったら今頃、私はどうなってたか。
やや笑みを引きつらせ、もう一度、双子に頭を下げる。
「ええと、とにかくありがとうございます。私はナノと申します。
エリオット様に拾っていただいて、お野菜を作るお仕事をいただきました」
「ええ!?ひよこウサギのニンジンを!?」
「助けたけど始末しとく?これ以上、食卓にニンジンを増やされたらたまらないよ」
……身体の危機から生命の危機に一瞬で飛躍したし。
しかしまあ、この反応は予想済みだ。
「見逃していただけるなら、畑で取れたお野菜をいくらでも差し上げますが」
斧を振り上げかけた双子がピタッと止まる。

畑に分け入った双子たちは文句をたれている。
「このイチゴ、すっぱいし虫食いが多いよ」
「こっちのトマトも、実が割れてたり青かったり、苦いのばっかりだね」
「タダで食べておいて、文句を仰らないでください」
麦わら帽子をかぶり、パチパチと、ハサミでお茶の木を剪定(せんてい)しながら
私は答える。素人は素人。突貫農業は今のところ大した成果を上げていない。
作る作物、作る作物、小さかったり虫食いだったり激マズだったり。
ニンジンも何度か取れたけど、親指くらい小さくて、甘みもなかった。
あれじゃ、とてもエリオットには献上が出来ない。
ただ幸いなことに、不思議の国は作物の成長が驚くほど早い。
今は肥料を変え、植え付けを変え、雑草を頻繁に取り、栽培法を調整し、と努力中。
お茶の木はまだ摘み取りに至らない。まあ、元々苗木から収穫まで何年もかかる、
難しい植物なのだ。今は雑草や害虫さんと戦いつつ、大切に成長を見守っている。
上手く出来た作物は屋敷に献上。使い切れなかった分は屋敷を通して売りに出して
もらい、多少の利益になって帰ってくる。
おかげでイチゴやトマト作りにも挑戦出来るようになった。
……まあ、現実は双子の感想通り。初心者があれこれ手を出すのは止めましょう。

「ここらへんは葉っぱとツルだけだ。何も食べられなくてつまらないね」
何だかんだ言って、トマトをかじり、地面を見ながらディーが言う。
そのあたりは根菜類のスペースだ。
「土の中に埋まってるんですよ。そのツルを引っ張ってください」
そう言うとダムがせーの、とツルを持つ。あー、そんなに先を持つと……。
「うわっ!」
案の定、ブチッとツルが切れ、ダムは後ろにひっくり返って尻もちをつく。
あーあー。高価そうなスーツに泥をつけちゃって。
仕方ないな、と私は麦わら帽子をかぶりなおし、立ち上がる。
そしてダムのそばにいき、
「ほら、根元を持って引き上げるんですよ。よっと……」
さっきのツルがするっと引き上げられ、土の中から、紫のサツマイモがゴロンと
顔を出した。うん、さすが初心者に優しいお野菜。ちゃんと出来た。
ついでなので他のツルも何本か引き抜いていく。
たちまち地面にサツマイモの小さな山が出来た。
「うわあ、すごい」
「おいしそうだね」
双子たちも感心したように目を輝かせる。
私は両手にどっさりとサツマイモを抱え、
「では先ほどのお礼に、暖炉で焼いた焼き芋をごちそうさせていただけますか?」
もちろん双子が断るわけがなかった。

ちなみに小屋に戻ったとき、男の身体は液体とともに消えていた。
理屈はよく分からないけれど、私は心底からホッとした。

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