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■小さな嘘

さて、植え付けの手順です。
まず畑に水をまき、土に吸水させる。
次に苗木を植えるための溝を掘る。
そして苗木を一定の間隔で配置し、根を乾かさないように急いで土をかける。
それが終わったら再度、水をまき、乾燥防止に軽くワラを敷く。
最後に、葉を農業用のハサミで高さが一律になるように剪定(せんてい)する。
以上が、農業なんたらの本に書いてあった、お茶の木の、苗木植え付け法です。

そして手順を確認した私は、吹きすさぶ風に髪をなびかせ、呟く。
「では、始めますか」
そして私が植える苗木は×××本。
それとは別に、ニンジン、ジャガイモ、ハーブの種まき作業も待っている。

…………

夜の小屋にいやらしい声が響く。
木のベッドをギシギシと揺らし、私は涙目でマフィアのNO.2に懇願する。
「いや、ダメ、やめてくださいエリオット……お願い……あ、ああ、あっ!」
けれどマフィアのNO.2は私の泣き声を無視し、手を冷酷に動かす。
「そそる声を出しやがって……ほら、こっちはどうだ?ここもイイか?」
「あ、そこも……ダメ……!あ、ああっ……」
「口で嫌がってても、声が裏切ってるな。ほら……言えよ。素直に気持ち良いって
言えば、もっとよくしてやるぜ……?ナノ」
私はぶるぶると震え、恐怖と苦痛と快楽のはざまで言葉をつむぐ。
「うう……痛いけど……や……すごく、気持ち良いです……」
「いい子だ……」
「あ、あ、ああ……っ」
恍惚の声を上げる私にエリオットは、私の肩に手を当て、
「それにしてもコリすぎだなあ……」

……早々にネタバレいたしました。
エリオットにマッサージされ中です。

種まきと植え付けを一気に、というのは無謀でした。
畑に植えるのはニンジンの種と、騎士に贈られたお茶の木の苗木×××本、それと
意外に早く届いた各種ハーブやジャガイモの種。
それらをひたすらに植えつけ、たまに水やパンを取って植えつけ、草むらでちょっと
仮眠を取ってまた植えつけ、水分を取って植えつけ……エリオットが様子を見に来た
ときにはどうにか作業が終わったものの、全身の筋肉痛で動けない状態でした……。

エリオットは容赦なく、私をマッサージしながら叱る。
「畑で転がってるおまえを見たときは、俺の時計が止まるかと思ったぜ。
ちょっと前まで畑仕事どころか、ろくに食ってなかったのに何、無茶してるんだ!
ちゃんと×時間帯ごとに休憩を取れって言っておいただろうが!」
そ、そんなゲームみたいな決まり、そうそう守れませんがな。
「で、ですからエリオット。こういった植えつけは急いで行わないと……」
「その前に倒れたら意味ねえだろ!普通に畑やってる奴だって、メシや睡眠は取る
だろうが!肉体労働で寝食を忘れたら、それこそシャレにならねえことになるぞ!」
「あううう……いえ、ですがおかげでどうにかこうにか植え付けと種まきは……」
強靱な手に腰をもまれ、苦痛と快楽の声が喉からもれる。
「本当に目が離せねえ奴……」
呆れたようにエリオットが笑った。

「あう……」
「はあ。俺も疲れたな」
エリオットは自分の手で自分の肩をもむ。私がやってあげたいけど、動けない。
マッサージは終わったけど、まだ筋肉痛は治らないのだ。
私はベッドでエリオットの膝に頭を乗せられ、まどろんでいた。
……本音を言うと、エリオットの足は普段から鍛えているためか筋肉質。
硬いから、ちゃんと枕に頭を乗せてほしいなあ……。
エリオットは私の頭を撫でながら言う。
「とにかく、これからは無理しないで、ちゃんと休憩して寝るんだぞ?」
「はい……」
後は雑草との戦いだ。そこそこ育ったら、可哀相だけど間引きもしなきゃいけない。
苗木がちゃんと根づくといいなあ。
「というか、あの苗木は何なんだ?ニンジンより広い面積を食ってるが……」
私の髪に指をもぐり込ませながら、エリオットが不思議そうに言う。
……苗木とは、騎士さまから贈られたお茶の木の苗木だ。
出どころを聞かれたくない私はヒヤリとする。
「えと、ツバキです。育てるものがないと言ったら園芸屋さんが余り物を下さって」
使用人さんたちに言ったのと同じ説明をする。
まあお茶の木はツバキ科だから、あながち嘘でもない。
「いや、数が多すぎだし、あんな大量のツバキをどうするんだ。
処分作業を押しつけられたみたいなもんだぞ」
「いえいえツバキオイルも取れますよ。どうせ育てるものがないですし……」
冷や汗をかきながら、どうにかこうにか答える。ちなみにツバキオイルはツバキの実
から、本当に手作り可能。すごく手間ヒマかかるけど。
「苦労性だな、おまえも」
使用人さんと同じく、エリオットもどうにか納得してくれたらしい。
ついでに言うと、園芸屋さんに関することも、全くのデタラメではない。
注文したハーブやジャガイモの種に混じり、知らない種がかなり入っていたのだ。
これは本当に売れ残りを押しつけられ……サービスされたらしい。
が、こちらは素人なので何の種かまでは分からず。
一応まいておいたけど、何が実るかは育ったときのお楽しみである。

「仕方ねえなあ。そういうときは俺に言えよ。部下に言ってシメさせてやるから」
「いえいえいえ!」
取られたならともかく、いただいたのだから、シメるなんてとんでもない。
あと騎士には、後で改めてお礼を言わないとなあ。今から気が重い。
あ。何だかうとうとしてきた。エリオット。そんなに頭撫でないで……。
そして私は完全に寝入ってしまった。

小さな嘘をついた罪悪感を、少しだけ胸に抱いて。

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