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■騎士との静かなるケンカ・下

けどそのとき、ふとエースが真顔になった。
「でも、本当に何で俺を助けたんだ?そもそも何で君は森にいるんだ?」
エースの声に若干、真面目なものが加わる。
どうも本気で、私がクマさんを攻撃した理由が知りたいらしい。

「敵対領土の役持ちで、君が嫌がることをした俺に、何で?」
私も説明しづらくて、首をかしげる。
「どうしても何も、目の前で人が襲われてたら、普通は助けようとするでしょう。
あと、森に来たのは、屋敷で使う『カメリア・シネンシス』っつうお茶の木を探す
ためです。株×××本取れるような群生地を探していて、結局なくて」
今さらだけどお茶の木を見つけたところでどうやって屋敷まで運ぼう。
「……本当に変わってるな、君」
エースの目が丸くなる。あ。ヤバ。また飛びましたか。
「本気で興味が出て来たかな……。じゃ、愛し合おうか」
「はあっ!?」
相変わらず凄まじい話の流し方だ。そして目的に一点のブレもない。
「何で!」
「俺と恋人になったから」
「同意してません!!」
「クマから俺を助けてくれただろう?愛の証拠だ」
「単なる人助けですがな!」
「謙遜するなんて可愛いよ」
――こ、この……。
形勢逆転だ。エースの目は明らかに獲物をいたぶる色になっている。
あと腰から下を撫でないでくださいっ!!
「ていうか、あなた、私の名前もご存じないでしょう!」
「顔なしの名前なんかあっても無くても同じだ。俺は気にしないぜ」
うっわ、笑顔ですごい暴言を吐かれましたよ。やはり最低野郎だ。
「いいじゃないか。役持ちの恋人を持ったって、他の顔なしに自慢出来るだろ?」
うう、強引に連れて行かれるかこの場で押し倒される前に何とかしないと。
「あのですねえエース。私の格好をよく見て下さい。ほとんど雑用だからあんまり
きれいじゃないですし、土の匂いもするでしょう?ハートの騎士が、帽子屋屋敷の
下っ端の顔なしを恋人にした、なんて噂が広がったら、あなたが笑われますよ?」
うう、言ってるだけで自己嫌悪病が発動してくる。するとエースは笑顔になり、
「うん、いいぜ」
「は?」
「つまり、きれいな格好をして俺に釣り合うようになりたいっていうんだろう?
じゃあハートの城のメイドになって働けばいい。帽子屋屋敷は退職してさ」
「冗談じゃないですよっ!」
捨て身の自虐攻撃まで華麗に流され、本当に額に汗が浮く。

まずい。本当にまずい。
ユリウスがらみのことを言った上、下手に反撃したのがまずかったか。
完璧に嫌がらせのターゲットにされたらしい。
無理やり恋人にされ、これで本当にメイドにまでされたら、どうなるか。

「メイドになったら俺の側づきにしてあげるよ。顔なしには名誉だろう?」
側づき。四六時中、主人のお側に仕える何でも係。エースの側づきでもされたら、
延々とこの騎士の八つ当たりを受け続けるハメになって、早々に胃が溶ける。
というか二度とエリオットに会えなくなる。もうお茶の木探しどころじゃない。
「恋人になれて良かったな……えーと、帽子屋屋敷のニンジンの子」
そんな恋人への呼称があるか!身の安全を確保するため、必死にもがいた。
「エース。私はあなたを全っっっ然!好きじゃありません!離してください!」
「照れる顔も可愛いぜ」
「あなたを傷つけたことは本当に謝りますから…ん……」
言葉を紡ぐ前に、騎士に唇を重ねられた。
恋人への優しい口づけというより支配のためのキスだ。
頭に回された腕はギリギリとこちらの痛みを無視してしめつけ、口づけは息つぎを
許さないほど激しい。舌を吸われ、強引に口内を荒らされ、それどころか、そのまま
足払いをかけられ、地面に倒される。
「……っ!」
やっと顔が離れ、必死に呼吸し、我に返るとエースに押し倒されている。
「それじゃ、恋人同士、愛し合おうか」

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