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■騎士との静かなるケンカ・上

騎士はあくまで爽やかな笑顔だ。
「何で私が消されなきゃいけないんです。悪いのはそっちでしょうが」
女を襲おうとしておいて。逆ギレにもほどがある。
「だってさ、あれから君のことが、頭から離れないんだぜ?
君を消しておかないと、俺は安心して眠れないし城の仕事も迷っちゃいそうだ」
「何で私のことが頭から離れないんです」
逃げ道はないかと私は必死で言葉を探す。
「うーん、君が原因かな。顔なしのくせに役持ちにケンカを売ろうとかさ」
うーむ。やっぱり言ったことがまずかったか。まあ認めたがらないだろうけど。

……認めたがらない。あ、待てよ。勝てるかも。

私はこう言ってみた。
「じゃあ謝りますね。ごめんなさい、エース」
刃を当てられているので頭は下げられないけど、エースを見て言った。
「……え?」
私が謝ったことが意外だったのかエースは驚いたようだった。
「君から謝るんだ。何について謝ってるの?俺の誘いに抵抗したこと?」
あれのどこが誘いだ。ていうか抵抗したことを謝るってどこの××××。
「あなたにひどいことを言ったことですよ。永久に時計塔にたどりつけないとか。
時計屋様に会えず傷心のあなたに、申し訳ないことを言いました。
そこまで傷つくとは思わなかったんです。本当にごめんなさい」
「……っ」
またエースの表情が強ばり剣を持つ手がかすかに震える。
首を本当に切り落とされるんじゃないかと思ったけど、幸いそれはなかった。
プライドが殺意に打ち勝ちましたか。
ならばと私も表情を変えず、言葉を続ける。
「斬らないんですか?」
「……何で君を斬るんだ?何か妙なこと考えてるみたいだけど、俺は時計塔のこと
とか、別に何とも思ってないぜ。ユリウ……時計屋もただの友達だ」
よし、言質はつかんだ。
「何とも思っていないなら、私の言葉にも傷ついていないということですよね?」
エースは考え込むような顔になったけど、こう言った。
「当たり前だろ。君が、俺と時計屋のことをどう知ってるか知らないけど、顔なしに
そこまで俺が時計屋にべったりだって思われるのも困るぜ。気持ち悪いよ」
「なら、私が斬られるいわれもないでしょう。剣を下ろしてください」
「…………」
一瞬、吹き出す殺意。けど最後にエースは剣を下ろす。

解説しよう。前回私が時計塔のことを出し『時計塔の友達に会えなくて寂しいだろ、
やーい』と言ったことで、エースは私に殺意を抱く。で、剣をつきつける。
でも騎士さまは大変に強がりな方なので、改まって私に『え、冗談を真に受けるの?
本当に時計塔がそこまで大好きなの?ごっめんねー』と言われたら『そ、そんなはず
ないだろ!』としか答えられない。で、『じゃあ私も斬られる理由が無いよね』と。
……私ら就学前の児童か。

「それじゃあ、私は急ぎますので。あなたも会合に遅れますよ」
「…………」
エースは剣を下げたまま、まだ私を見ている。
釈然としない、という顔だ。それもそうか。
やがて私が去るより早く、私に低い声で言う。
「で、俺が君の言葉を気にしないのだとしたら、何で俺は君が気になるのかな」
余所者だから?何て答えられるわけないか。
「知りません。ご自分で考えて下さい」
早く逃げないと。じりじりと後じさりする。
すると騎士はしばらく顎に手をあて、嫌な笑顔を浮かべ、
「そうか、俺は君が好きなんだ!」

「……は?」
逃げようとしていた足がつい止まってしまう。

「うん。そっかそっか。で、君も俺が好き。良かった良かった。両思いだな」

「……はあ?」

言っていることが電波すぎて反応が遅れた。
しまった、と思ったときにはエースは私に近づき、腰に手を回していた。
ていうかどこから突っ込むべき?
「触らないでください!痴漢!」
「あははは。両思いなんだから、それでいいだろう?恋人なのにつれないなあ」
そして腰をさわさわと……さっきと別の意味で背に悪寒が走る。
「何であなたが、私を好きなんです?」
「君に会ってから君のことが頭を離れないから。これって恋だよな」
「いえ、頭が離れないって、私の挑発が原因でしょう。時計塔とか何とか」
「でも俺は時計塔のことはどうとも思ってないから、それは関係ないぜ。
だから消去法で、俺はきっと君のことが好きなんだ」
――こ、こいつ……。
私に言い負かされたからって、斜め上から反撃に来やがった。
「じゃあ、何で私があなたを好きなんですか!」
「え?だって、クマから俺を助けてくれただろう?これって愛だよな」
「最後にはあなたに助けられたでしょうが……」
「うんうん。命の危険をおかして、君を助けた俺に心を打たれたんだな」
おいおい。

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