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■ナノの牧〇物語・上

ニンジン。カロテン、ミネラルはじめ栄養豊富な根菜。
抗酸化作用があり食物繊維も多く、便秘や生活習慣病予防に効果的。
しかも安価で低カロリー。皆様どんどん食べませう。

……が、さすがに作った経験はない。

上司たる三月ウサギは、私にニンジン畑を作れと簡単に言い、笑っている。
「ど、どうやって……」
草っぱらのボロ小屋の前で、引きつり気味に聞く私にエリオットは、
「簡単だって!ここらへんの雑草を全部抜いて、畑を作って、種まいて肥料や水を
やって育てて収穫する!それだけだ」

開拓って言わんか、それ。

「人手はお貸しいただけるんですか?」
リアル牧場〇語じゃないんだから。さすがに女の細腕じゃ限界が。
ニンジン収穫どころか種まきまで何千時間帯もかかりますがな。
するとエリオットは心底から申し訳なさそうに、
「……すまねえ。今、別のとこでアサとかケシのでかい畑を作ってて、全部そっちに
回ってるんだ。本当にすまねえ」
「はあ、そうですか……」
アサって麻のこと?衣料品の原材料でも生産してるのかな。変なマフィアだな。
「そんなに広くなくていい。時間帯がかかったってかまわねえよ」
「…………」
断って裏通りに戻ろうかと、激しく迷った。
いくら不思議の国でも、荒れ地を女一人で切り開けとか。普通じゃない。
……あ、普通じゃなかったか、この世界の人らは。

「分かりました。他ならないエリオットの頼みなら」
「そうか!ありがとな、ナノ!」

内心を出来る限り隠し、私は承諾した。
裏通りに戻ったって、どのみちまともな生活は待っていない。
衣食住と身の安全を保証されるだけ、こっちの方がはるかにマシだ。
エリオットだってダメダメな私が出来る仕事をと、頭をひねってくれたんだろう。
なら、赤毛のアンとかローラとかターシャ・テューダーみたいに、憧れのカントリー
ライフを始めたと考えればいいか。

「それじゃ頼むぜ。あ、クワとかスキは小屋の裏にあるからな」
かくして憧れのカントリーライフとは、ほど遠い現実が始まった……。

…………

それから×××時間帯が経過しました。

……飛びすぎかもしれませんが、ご容赦を。
だって単調極まりないのです。『牧場物〇 不思議の国の余所者ナノ』って。

とりあえず、エリオット以外に頼れる人もなく、お借りした農業資料を頼りに荒れ地
の開拓を始めた。といってもアメリカンなカントリードラマは何もない。

朝起きたら、帽子屋屋敷の裏口に言って三食分のパンとスープを受け取る。
それから生活の基本となる水くみ。丸太小屋に水道は通っておりません。
でも帽子屋屋敷の領地は川が多いから、そこから水をくみ、生活に使用いたします。
この往復がけっこう重労働なんだ……飲むときは沸騰させにゃ、腹を壊しますし。
そして丸太小屋の掃除や洗濯が終わればやっと朝ご飯。

……で、それが終われば悪夢の畑作業の開始である。
草を根っこから抜いて、大きな石を取り除き、後は野菜栽培に適した土にするため、
ひたすらクワで土を耕す。耕す。耕す!!がんばれナノ!!

そして外での昼食をはさみ、くたくたになって作業を終え、丸太小屋に帰る。
暖炉の火をおこし、冷めたスープを温め、パンをひたして一人で食す。
私が火をおこせるのが意外?冷えきったスープを飲んだら嫌でも覚えますとも。
……まあ、大半はライターのおかげですが。
で、残った水を少し温めて小屋の裏手で身体を軽く洗う。
ボスに快く思われていない私は屋敷への出入りが許可されていないので。
その後、やっと、せんべい布団を敷いただけの硬い布団に飛び込む。
そして睡眠は一瞬。夢は見ない。目が覚めるとまた重労働が待っている。

……21世紀の日本人にはハードすぎる。
投げようと思ったことも一度や二度じゃない。
いや、エリオットが来てくれなければ、本当に逃げ出していただろう。
でもエリオットはマメに様子を見に来てくれ、相変わらず親切だった。

『おまえ、すごいな。草だらけだったのに、もうこんなにきれいになってる!』
『大変だよな。本当にすまねえ!必要なものはないか?買ってやるから!』
『テラスが腐りかけてる?今、直してやるからな!』
『でかい石がどうしてもどけられないのか。おう!俺にまかせとけ!』

些細なことでも私を褒め、ボロ小屋の補修をし、農作業まで手伝ってくれる。
男手のありがたさをここまで実感したことはなかった。
だからエリオットに喜んでもらいたいと、頑張れたのだ。

「よし……」
そしてある時間帯。私はクワを肩に担ぎ、心地良い労働の汗をぬぐう。
目の前には広大……とはいかないけど『畑』と言えるくらいの広さの耕地が広がっている。

本当に時間がかかったけど、どうにかこうにか、種をまけるくらいの広さは耕した。
いよいよ野菜栽培の開始である!

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