続き→ トップへ 短編目次 長編2目次 ■三月ウサギに風呂に入れられる・下 目を開けると、最初にエリオットの顔が飛び込んできた。 スーツのジャケットを脱いで、椅子に座っているらしい。 「起きたか?」 「…………はあ」 一瞬だけ状況が把握出来なかったけれどすぐ分かった。 私はバスローブを着させられ、ベッドに寝かされていた。 うう、寝過ぎたのか頭が重く、あちこちが痛い。 「風呂場で寝る馬鹿があるか。やっぱり一緒に入って正解だったぜ」 「あう……」 頭を軽く叩かれ、少しへこむ。でもエリオットの目は温かい。 それにしても本当にだるい。髪も乾いてるし、一体どれくらい寝ていたんだろう。 「あの、私どれくらい寝てました?」 「うーん、××時間帯くらいだな」 「え……っ」 絶句する。人間って、そんな長時間寝られるものなんだ。 食べさせてもらい、風呂に入れてもらい、かつ着替えさせてベッドにまで……。 私は慌てて起き上がり、 「ええと、その、本当に本当にありがとうございました……うっ」 土下座の勢いで頭を下げた拍子に……急に起きたのでクラッと来た。 そのまま落ちそうになった私をエリオットが慌てて支える。 「ほら。無理すんな。それより腹、減ってるだろ?とりあえず食っとけ」 と、ニンジンブレッドを出してきた。 「いただきます」 私はありがたく受け取って、それをかじりながら、 ――何で、こんなに親切にしてくれるんですかね……。 とワケが分からない。それに、お世話になりすぎだ。 「あの、エリオット……」 と、ブレッドを食べ終わり、エリオットに何か言おうとすると、 「ほら、服」 ベッドの上にバサッと何か放り投げられた。 そういえばバスローブ姿だっけ。着替えなくては。 そして放られたものを見て首をかしげる。 「あれ?私の服は?」 ベッドの上のそれは、買えばそこそこの額がすると思われる新品の服だった。 エリオットは悪びれなく、 「おまえの前の服なら、ボロいし汚すぎたから捨てた」 「そ、そうですか……」 まあ着られる状態じゃなかったから仕方がない。 「そのうち代金はお返ししますので……」 「別にいい。俺が勝手に持ってきたんだから。早く着ろ」 「は、はい……」 何だかもう本当に頭が上がらなくなってきた。エリオットは面倒くさそうに、 「今回の会合が終わったら、帽子屋屋敷に行くからな」 「……は?」 帽子屋屋敷に行く? 「何で私がお屋敷に行くんですか?」 「情報を集めたんだよ。おまえ、本当に何も出来そうにないから、もう仕事探しは 止めとけ。屋敷住まいは無理かもしれないが、敷地の草むしりでもしてもらう」 ……草むしり。の××くんでも出来るアレですか。 まあ、確かにこの世界、植物の根つきや生育状況は大変よろしいのですが。 というか、何も出来そうにないとか、人のことをそこまで言うか。 「何で、そんなに親切にしてくれるんですか?」 おずおずと聞いてみるけど、即答はない。エリオットも少し考え、 「俺が知るかよ!ほら、着ろよ!」 「はあ……」 エリオットの中でも、まとまらないらしい。 これ以上怒らせても厄介なので、私は従順に服を着る。 というかバスローブだから、当然、下は何も着ていない。 女性の着替えだから見ないでほしいのに、エリオットは普通にこちらを見てくる。 まあお風呂に入れられたので、今さら照れるのも返って変かと視線を気にしないフリ をして、新しい服を身につけた。 やっとベッドから下り、クルッと一回転。 「ど、どうですか?」 エリオットは偉そうに腕組みし、 「うん、どうにか女に見えるぜ!」 なんつう褒め言葉だ……。 けど、そこで終わると思われたエリオットは私をしげしげと眺める。 「……可愛くなったな」 「え……?」 「前は全く思わなかったけど、今だったら俺さ……」 そしてさらに私に何か言おうとしたとき、 「エリオット様〜ボスがお怒りですよ〜」 と部屋の扉の向こうから声がした。 これまたずいぶん久しぶりに聞く、だるそうな使用人さんの声だ。 するとエリオットは真っ青になって顔を上げる。 「うわ、やべえっ!忘れてた!」 ガタッと音をたてて、椅子から立ち上がる。 「どうされたんですか?エリオット」 「お茶会だよ!ブラッドに呼ばれてたんだけど、おまえが起きたから、すっかり忘れてた!」 そしてあたふたと身支度を整えたかと思うと、私の手首をつかんでまくしたてる。 「ナノ、一緒に来い!ブラッドに紹介するから!」 「え、ちょっと待って、それだけは!ちょっとっ!!」 もちろん抵抗するすべなどないのであった……。 3/6 続き→ トップへ 短編目次 長編2目次 |