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■甘やかされた話8

クローバーの塔に入った私は肩を落とす。
「結局、最後はここですか」
使用人さんたちが役持ちのエースに思いのほか手こずり、おかげでこちらはどうにか
逃げられた。
でも目に優しいクローバーの塔の内装を見るほどに、ため息が出る。
入るのもずいぶん久しぶりなら、塔の知り合いに会うのも久しぶり。
この間グレイが、私の前から格好良く去ってから、それなりの時間帯が過ぎた。
塔には迷惑駆けまくってる手前、本当はお世話になりたくない。
でもいろんな意味で非常事態だ。下手に意地をはればもっと迷惑になるし仕方ない。
私は広い回廊を歩き出した。
「とりあえず、グレイかナイトメアに連絡をしてもらいませんと」
直接ナイトメアの執務室に行ってもいいけど、グレイとはあまり顔を合わせたくない。
誰かに言づてを頼みたい。
私はトボトボと歩き、人を探した。

数時間帯後。
「……何で、誰も見かけませんかね」
長い廊下を歩きながら首をかしげる。
外では抗争があるから、その関係で出払ってるんだろうか。
そういえば、三月ウサギさんも、クローバーの塔がどうこう言ってたけど。
でも、歩けど歩けど、不自然なほどに人に会わない。
「うーん、このままナイトメアの部屋に行きますかね」
というか森で野宿したとき、珍しく夢の中で彼に会わなかった。
やはりおかしい。いったいどうしたんだろう。
「ん?」
何か人のうめき声らしいものが耳に入ってきた。
私はあわててそちらに走って行く。

「いったいクローバーの塔に何が起こったんですか!!」
私は愕然として叫んだ。
クローバーの塔がおかしいのも当然。壊滅状態だった。
顔なしの職員さんが男女の別なくバッタバタと倒れているのだ。
それも一つの部屋(オフィス?)だけでなく、どこの場所でも。
――ま、まさか、抗争がらみのテロル!?
なら細菌兵器や毒ガスでも使われてるんだろうか。
「しっかりして下さい!大丈夫ですか!?」
「……う……」
一応全員に息はあるものの、起き上がれないらしい。
「誰か!誰か無事な方はいませんか!?」
助けを求め、他の部屋に行くも、そこも似たような状況だった。
何かしてあげたくても、状況が把握出来ない上、人数が多すぎてどうにもならない。
「ナイトメアーっ!グレイーっ!」
もう気まずいとか言っている場合ではなく、私は必死に塔の権力者たちを探した。

そして、
「ナノ……」
「ナイトメアっ!」
走り回った末、廊下の向こうに塔の主が見えた。
いつも青白いが、今は特にひどい。
今にも連れて行かれそうな顔をしていた。
「ナノ……やっと、来てくれたか」
「ナイトメア、しっかりして下さい!」
でも私は大慌てで駆け寄り、倒れそうな彼を肩で支える。
う……細身だけど男性は男性。ちょっと重い……。
「体調が悪いみたいだけど、大変なんですよ!ナイトメアっ!塔の人たちが!」
「ナノ……」
しかし私に身体を預けながら、ナイトメアは必死に言葉を紡ぐ。
「頼む……君にしか出来ないんだ……どうか、奴を止めてくれ……」
「は!?え?ちょっと、ナイトメア!?」
私に最後の言葉を伝えるとナイトメアは崩れ落ちる。
「ナ、ナイトメア、ちょっと、ナイトメア!」
――ま、まさか本当に毒ガス兵器だったりしますか!?
恐怖で慌てて袖で鼻をおおうけど、どのくらい持つんだろう。
――窓を、窓を開けないと!
そのとき、声がした。

「ナノ!」
誰よりも頼もしく、暖かい声が。
「グレイ!」
私は喜んで振り向いた。

廊下の向こうからグレイが走ってくる。私はナイトメアを抱きしめながら訴えた。
「大変なんですよ、グレイ!ナイトメアが、皆さんが……っ!」
グレイはすぐに倒れたナイトメアに駆け寄ると、脈を確かめ、手早く襟元を緩めて
楽な体勢にさせる。そして厳しい顔で、
「未だに犯人は見つからないが、抗争に乗じたテロの可能性が高い。
立っているのは俺くらいで行方不明者も多い。行政は完全にマヒ状態だ」
「犯人は?」
「皆目不明だ。犯行声明もない」
だが、とグレイはナイトメアから目を離し、私を見る。
「君は俺が必ず守ってみせる。そばを離れないでくれ」
「はい!」
非常事態ではあるけど、胸が大きく高鳴る。
私はグレイがナイトメアをおんぶするのを手伝い、彼の後をついていった。

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