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■甘やかされた話2

そして一時間帯も経過しないで。
人通りのない道まで逃げ、ハートの領土への逃走路を模索していたところ頭に何やら
金属の冷たい感触を抱きましたわけです。銃、です。

「ナノ様、帽子屋屋敷の者です。ご同行願えますね?」

疑問系を装った脅迫。
さっきまで無人だったはずなのに、私の周囲には五、六人の制服の皆様。
彼らは私を撃てない、むしろ撃ったら彼らの方が始末されると分かりすぎるくらい分かっている。
「……はいです」
「ありがとうございます。ナノ様」
分かっていて拒めない私。拒めない私につけこむしか、生きる手段のない彼ら。

そして、しごく丁重に帽子屋屋敷に連行された私でした。

…………

「ナノ、来なさい」

ボスの部屋に入れられるなり真っ先に目に入ったのはテーブルの上の……これ以上は
口にしたくないです。
あえて言うなら、あんたこれから何の撮影をする気ですかと。
それくらい大量の……いえ、これ以上は説明を拒否します。断固拒否します!
で、私は嫌々ソファまで歩き、彼の横に座る。
すると、腰を抱かれ、強引に引き寄せられる。
私が眉をひそめたことは無視し、ボスは一つを私の顔に突きつける。
ますます嫌そうに顔をそむけた私に、ボスはむしろ嬉しそうに、
「オススメはこれだ。君の×××に合わせた特注品で、君も満足するだろう」
……久しぶりに会って第二声目で放送禁止用語を口にされましたよ。
セクハラ受けまくりの薄幸の少女ナノ。しくしく。
「どれを使いたい?まあ君の希望が最優先だ。満足出来ないなら新たに作らせよう」

…………私の希望は、あなたが私への興味を、永久に失うことですが。

と、言える訳もなくヘタレな私は迎合に走った。
突きつけられたソレを恐る恐る手に取り、
「え、えーと。これ、ちょっと×××が××××すぎなんじゃないですか?
ここが××××××だと、××のときに××××××××(以下省略)」
「ふむ。やはり当人の意見は参考になるな。なら×××と××を×××にして――」
「うーむ、それですと、あなたが××××する際に××××××××(以下省略)」
……何か大人の××会社さんの商品開発部になった気分です。
と、呑気に思っているとついにブラッドが言いやがった。

「では一度使ってみるか。実践する前と後では感想も違うだろうしな」
ブラッドはそう言うと私からソレを取り、今さらながら凍りつく私の方を向いて……。

…………

ベッドの中で、ブラッドに腕枕をされながら私は話す。
「で、私の感想としましては、×××したときに××××がちょっと×××で――」
「ふむ。では×××を××××××にして××××させよう。他にはあるか?」
「そうですね。あと最初に×××××したとき、×××××××××……」
もはや会話=放送禁止用語。
ベッド中の商品開発会議。モニター料をいただきたいくらいだ。
でもブラッドの肌の熱に安心し、うとうとしてくる。ブラッドも無理に起こさない。
抱き寄せてくれる腕に安堵し、髪に口づけられて頬がゆるむ。
眠りたくなくて薄目を何とか開けているとブラッドと目が合う。
目を閉じると、自然に重なる唇。
――はあ、本当に私って子は……。
自己嫌悪しつつ、目を閉じる私だった。

…………
「とにかく、義理は果たしたんだから、もうここにいる理由もありませんね」
というか義理さえも存在しない。
長い眠りから起きた私はとっととボスの部屋から出……何かにぶつかった。
「うわっ!」
「お、悪いなナノ!」
「うわぁっ!」
腹心殿が私を見下ろし、わざわざ両手で豪快に頭をわしゃわしゃする。
髪型が、髪型が実にワイルドに!
「止めて下さいよ!エリオット!」
頭を押さえ、バカでかいお兄さんを見上げると、
「それで、どれが一番良かったんだ?ブラッドがさ、『やはりナノはいじめる
ほど興奮するらしいな』とか言って――」
最後まで聞かずに駆けだす。
「おいナノ!照れるなって!」
照れるか。
そのまま私はまっすぐにセクハラ屋敷を出て、庭を突っ切り、門を走り抜けた。
「……ていうか、普通に外に出られましたね」
屋敷を振り返りながら思う。
欲望を満たしたボスは、すんなりと出してくれたみたいだった。
そして、いじめるほど興奮なんてしてないと思います。
……多分。

…………
「はあ。何だか疲れました」
店への道を私はとぼとぼ歩く。逃げるのが最優先だったけど、身体がまだキツイ。
とにかくブラッドはしばらく手を出さないでいてくれる……といいなあ。
「どこかで休みますかね」
私は喫茶店に目を向ける。

「休むなら休憩の方がいいぜ?ほら、こっちに宿があるんだ」

「…………」
「もちろん金は俺が払うから心配しなくていいぜ。ほら、俺って騎士だしさ」
例えツッコミ待ちにしても返答などしたくない。
そう、今まさに私の手を取って、赤い騎士様が横を歩いている。
しかし物語のように薄幸の少女を救いに来たのではない。
つか遅すぎ。そして追い打ちをかけに来たようにしか見えない。

いつの間にか横に現れた騎士様は、私の手をぐいぐいと引っ張って進む。
こういうときだけ迷わず、特徴ある看板の建物に。
顔は笑顔だけど、私の手を握る力は……渾身の力で暴れてもほどけないんだろうな。
はあ。

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