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※注意:夢短編はR18描写を含む作品があります。
少しでも不快に感じられましたら、すぐにページを閉じてください!


■雨と騎士1

※R18

森の中でどしゃぶりにあった。
私は大きな木の下で、ぼんやりと座っている。

「…………」
人間、どうやっても逃れられない状況になると、全ての気力を失うものだなと思う。
……誤解はいたしませぬように。
誰かにどうこうされているわけでなく、自然現象の話です。
「……雨……ですね」
呟いてどうにかなるわけではないけど、それだけ呟いてみる。
どしゃぶりの雨。しかも森の中の雨。しかも遭難中。
これ以上に絶望的な話はあるだろうか。
本降りにならないうちに、かろうじて大きな木の下に身を寄せた。
けれど、雨の降りが強くなるにつれ、葉っぱの間からポタポタ水滴が零れる。
そんな雨水で、すでに全身ぐしょ濡れだ。
座っている地面もとうに水を吸っていて、全身どこもかしこも寒い。
ただでさえ薄暗い森の中は、黒い雨雲のせいでもっと視界が危うい。
このままの状態が続けば、正直ヤバイと思う。
――でも無理に雨の中に出ても、よけいに迷うだけですよね……。
ただでさえ雨で体力を奪われている。それで豪雨の中に出るなど愚の骨頂。
「止みますよね……」
いつかは止むだろう。けど空を覆う雲は分厚く、ざあざあと情け容赦なく降る雨は
むしろ勢いを増している。
――何で、森にハーブを採りに行こうとか思いましたかねえ、私。
一人で出て来て、知り合いにも会わなかったから、誰も行き先を知らない。
森だから動物さんに会えればいいのだけど、猫もネズミも来るときに街で遊んでいる
姿を、遠目に見かけた。
今頃、雨やどりがてら、どこかの店で一杯やっているだろう。
わざわざ雨の降る森になんて、来るはずがない。
夢魔に会おうにも、こんな状態で眠れるわけがない。
「わっ!」
ピカッと光ったかと思うと轟音。雷にビクッと身体がすくむ。
――雷って、私がもたれてるような大きな木に落ちるんですよね……。
ぶるっと背が震える。けれど迷い出ることも出来ない。
「……寒い……」
雨も、暗い森も、寒さも雷も、全てが嫌で私は膝を抱える。
目をぎゅっと閉じても雷の音、雨の音、雫を受けて木々がざわざわ揺れる音。
私は足から手を離し、両耳に当てて音を防いだ。
葉っぱの間から落ちる雨水が、首筋から服の中に入る。
さすがにそれだけは防ぎようがなく、私は身体を丸め、堪え忍ぶことにした。

…………
「……?」
どれだけ経ったのか。
雨水が身体にかからない。一滴も。
雨が止んだのだろうかとわずかな希望を持って両手を離し、目を開けた。
「あれ?」
見えるのは、さっきと変わらない、どしゃぶりの森の中。
聞こえるのは雷音と、ごうごうという雨音。
けれどなぜか私に水滴がかからない。
「???」
首をかしげ、いかなる奇跡が起こったのかと上を見る。
すると見えたのはトランプマークをあしらった黒地の……
「え?」
黒地の布が動く。よく見ると、それはコートらしきものの裏地だった。
裾がボロボロ。表は赤い生地らしい。
「え……」
「大丈夫?ナノ」
そして聞き慣れた声が耳に入った。
コートのすそで、私の頭上を覆っていた騎士が笑った。

私はあまりにも都合が良すぎて、騎士の幽霊でも現れたのかと思った。
「エース。自分がくたばったからって私を道連れにしないでもらえます?」
「あははは。俺は残像じゃないぜ。雨宿り出来る場所を探していたら、木の根元で
ずぶ濡れで、耳を塞いで目を閉じて、ぶるぶる震えてる女の子を見つけたんだ。
こんな子を守らないなんて、騎士どころか、男じゃないだろ?」
「…………」
震えてねぇですし……多分。
そのとき、近くで雷が落ちる大きな音がした。
「わっ!」
視界の隅で、落雷をまともに受けた高い木がパチパチと炎を上げるのが見えた。
私は驚きに顔を青くし、エースに、
「す、すごいですね。こんなの初めて見ましたよ」
「うんうん。でも大丈夫。この騎士が雷から君を守ってあげるからね」
上から頭を撫でられる。私は子ども扱いにムッとして、
「驚いただけですよ。雷くらい、怖いわけないでしょう?」
「なら、何で俺の足にしがみついてるんだ?」
「…………」
私は立っているエースの足にぎゅーっとしがみついていた。

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