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■捨てた話4

※R12

――…………。
暗闇の中で目を覚ますと、ブラッドが私の身体に手を這わせている。
冗談じゃない、と身じろぎして逃げようとした。
すると、静かに腕を押さえられ、力をかけられる。傷ついた方の腕を。
――…………っ!
痛くはないけど、脅しということは分かる。
あきらめて力を抜くと、行為が再開された。
――ん……や……。
キスはせずに肌に舌を這わせ、下着の上から反応を引き出そうと何度もさする。
でもこちらは身体がダルいしそんな気分じゃない。
けど下着を引きずり下ろされ、執拗に刺激されると、生理的に少しずつ濡れてくる。
……生理的な反応だから。もうマフィアのボスには何も感じてないから。
肌が熱くて仕方ない。それでも足を抱えられたときは期待に身体が震えた。
多分、鎮痛剤を投与されているのだろう。痛みは全く感じなかった。
そして、ブラッドは一気に押し入る。
――ん……や……あん……。
激しく揺さぶられて、傷がヤバイのではと思うけど、快感でそれどころじゃない。
眉根をよせ、歯を食いしばり、イキそうになるのに何とか耐えた。
でも脇腹にじわりと生温い温度を感じ、あー、傷口が開いたなあと思う。
――ブラッド……ブラッド……私、あなたが……。
気持ちが良くて、涙でゆがむ視界でブラッドを見る。
ブラッドはハッとしたように私を見て一瞬だけ動きを止めた。
けれど思い直したように行為を続け、前以上に激しく責め立てる。
私は胸を揺らし、怪我をしていない方の手で傷口を押さえ、声のない声を上げる。
『……っ!』
空気が振動する。ブラッドが何か叫んでいるみたいだ。
私の名前なんだろうか。だったらいいなあ。分からないけど。
あ、傷口が濡れたなあ、と思った瞬間、内側で何かが放たれるのを感じた。
一呼吸遅れ、私も達し、ベッドに沈む。
荒い息を整えながら傷口を押さえる手を離し、それが不快な液体に染まっていること
だけを確認する。いくら痛みがないからって……。
――全く、私にお構いなしなんですから……。
欲望を吐き出し終えたブラッドが私にキスをして、耳元で何かささやいた。
――本当に、好きになるもんじゃないですね。マフィアのボスなんて。
振り回されるし、釣り合わないし。
処理してくれる手を心地良く感じながら、私は回復のための眠りについた。
…………
うろうろうろとブラッドの部屋の中を歩く。
まあ脇腹は改めて治療され、その傷も回復してきた。
時間帯も相当経過したし、そろそろ傷が巻き戻る頃だろう。
それはそれとして。
――はあ……。
書棚から、片手で一冊取り出し、身体で支えながら開く。
でもろくに頭に入らず、すぐ棚に戻した。
そしてソファに座り、一人でため息をついた。
――傷が治ったら、私はどうしたらいいんでしょう……。
今まで、何度もブラッドに捕まって、そのたびに逃げてきた。
今回だって逃げようと思えば逃げられるだろう。
でも今はそう考えると胸が痛い。とても痛い。

告白は止めることにした、つもりだ。
帽子屋ファミリーの抗争に巻き込まれて大けがをした。
保護され、手厚い治療を受けられたのは私が余所者だからだ。
もちろん、対等な関係ではない。
ブラッドのいるときはお茶会につき合わされるかベッドに引きずりこまれるか。
人が来ようが関係なし。私を抱きながら仕事の指示をされたこともある。
こちらが痛がると中断してくれるけど、普通は全快するまで手を出さないものだろう。
……本当に人として最低だと思う。
真剣に手紙を書いていたのがつくづくアホらしい。
うん。迷うことはない。どうせ手紙は渡す前だった。
何も無かったことにして、家に帰って、今まで通りの生活をすればいい。
私は決意を深く深く固め、ブラッドへの思いを断ち切る。
さて、後は帽子屋屋敷をどう脱出するか……

扉の開く気配がし、ブラッドが戻って来た。珍しく薔薇つき帽子を被っていない。

「っ!」

私は反射的にブラッドのところに駆けより……抱きしめる寸前で我に返る。

ピタッと停止し、視線をきょろきょろ。
ブラッドがニヤニヤしながら何か言っているのが妙に悔しい。
私は表情でだけでも抗議の意を伝えようとブラッドを見上げ――深い碧の瞳を見た。

「……っ!!」

その瞬間に息が止まる。
心臓の鼓動が耳に聞こえると錯覚するくらい跳ね上がり、顔が真っ赤になる。

世界が鮮明に色づき、無為が有意に、空虚が充足に転換する充ち満ちた一瞬。

――どうすれば、いいんだろう……。

最後にはただ顔を赤くして、うつむくしか出来ない。
両手を無駄にもじもじとさせ、床を見ている。
ブラッドの反応が怖くて見られない。


あと、今さらどうでもいい感があるけど、時間帯が経って傷が治ったっぽい。

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