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■改装話の後日談5

ドアの声がいくつも私にささやきかける。
『扉を開けてごらん……』
『新しい場所へ……』
「ナノ、さあ早く扉を開けてください!時計屋の元へ!」
ペーターは私を急かす。なぜかとても興奮しているみたいだ。
でも私の頭にあるのは早く戻らないとお仕置きされるということだけだった。
けどペーターも役持ちだ。怒らせるのはとても怖い。
何とかなだめられないだろうか。
「ね、ねえペーター。私、少しお腹が空いて……」
「あちらで召し上がってください!時計屋なら必ず何か出しますから!」
ペーターは私の手を握ると、無理やりにドアノブをつかませた。
「さあ、回して開けてください。そして振り向かないで行ってください!」
「どこへです?」
「時計塔ですっ!!」
私は首をかしげる。

「でも私、あまり時計塔に行きたくないんですけど……。
時計塔に行ったのがバレたら、きっとお仕置きを受けると思いますし」

「っ!!」

「ペーター?」
私は白ウサギを見る。ペーターは震えながら、
「ナノ。僕は……僕だけは、他の腐った役持ちどもとは違います。
あなたが、あちらに行くことをお望みなら……」
ペーター=ホワイトはそう言って、私に銃口を向けた。
白ウサギなのに顔は真っ青で、指がぶるぶる震えている。
「あなたが、時計塔を拒むほど現状に恐怖しているのなら……僕は……」
「…………ペーター、泣かないでください」
銃の意味はよく分からないけれどペーターが私を撃つことは無いだろう。
今はペーターが泣いていることがとても心配だ。
ふらつく足で近寄り、ビクッとする白ウサギの手に触れる。
「ねえ、そんな顔をしないで下さい。そうだ。お昼を一緒に食べませんか?」
あんな美味しそうなものを食べれば、きっとペーターも気を取り直すだろう。
誰かが来たらペーターがいることにどうこう言うかもしれない。
でも逃げようとしたと思われ、制裁を受けるよりマシだ。
「ね、ペーター。そうしましょうよ。きっとあなたは疲れてるんですよ」
頭を撫でてあげた。
「…………」
すると今度はペーターが沈黙する。
「…………でき、ない……」
彼は銃を時計に戻し、私の頬に触れる。そして、うつむいた。
「出来ない……僕には出来ない……っ!」
ぽたぽたと涙が地面にこぼれ落ちる。
「ぺ、ペーター……」
私は困ってしまった。
どうしてだかあまり元気のないペーター。とても心配だ。
そして自分のことしか考えてなかった私が、だんだん恥ずかしくなってきた。
――さっきから、お仕置きされるとか、私はそんなことしか……。
そして思い出す。
そういえば、あと数時間帯は店に誰も来ないと言っていたっけ。
今なら、大丈夫なはずだ。
そして目の前にあるこのドアは……。
私はペーターの手を引っ張った。
「行きましょう、ペーター」
「……え?」
私は彼の手を握ったまま、扉を開き、一緒に中に入った。

…………
「ん……ン……」
「ナノ……僕の、僕だけのナノ……っ!」
抱きしめられ、執拗にキスされる。
どうしてこうなったのか、よく分からない。
森のドアを開けて、一瞬で家に戻ってきた。
ペーターは呆然としたように室内を凝視し、何かが抜け落ちたような顔をした。
そして突然私を抱きしめた。
ペーターは怒っているんだろうか。でも喜んでいるようにも見えた。
空腹のせいか、とても頭がぼんやりする。
とにかくペーターは役持ちだ。
役持ちには従わなくてはいけないから、私は抵抗してはいけない。
怒らせたなら怒りをなだめなくてはいけない。
でないと後でひどい目に遭わされる。
それにペーターの泣き顔は収まった。だから良かった。
そのままの食事のことは気になるけど、どうせいざとなったら食べられない。
私は我を忘れて口づけるペーターの頭を静かに撫でる。
そして顔が離れたとき、微笑んだ。
「ねえペーター。忘れましょうよ」
「ナノ……」
「その方が、楽になることもあるんですよ?」
「ええ、ええ……そうですね、ナノ」
ペーターはうなずき、また涙を流した。
泣かないでほしいと私は困ってしまった。

…………
結論を言うと、ペーターはそれ以上は何もせずに帰ってしまった。
私は少しも乱れていない服で、ペーターを見送った。
――まあ、また来たときにサービスしたらいいですね。
私は確信している。

近いうちにペーターもここに通うようになるだろうと。

そう、私は確信していた。

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