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■改装話の後日談3

※R18

――味がしない、ですね。

口を離し、湯呑みをことりとテーブルに置く。
窓がないから、他には音がしない。
私一人でここにいる。

何とか逃げる方法を考えようと、戸棚で見つけた最高級の玉露を淹れてみた。
茶葉の色形といい匂いといい、もしかしたら私が元の世界から持ってきたものより
高いものかもしれない。
でも味がしなかった。
「…………」
湯呑みから湯気が無くなり、少しずつ冷めていく様子を観察する。
することも、したいこともない。
そこでハッとし、慌てて否定する。

ここから逃げなくては。

例え反撃され、制裁で嬲られたとしても。
抵抗を止めたらそこで終わりなんだから。

そのとき、ガチャリと扉が開けられた。
「ナノ、入るぞ」
「っ!!」
グレイだった。
途端に背筋が強ばり、額に冷たい汗が浮く。
身体がガタガタ震え、でも立ち上がれない。
気がつくと椅子の上に体育座りをして、両手で身体を抱きしめていた。
グレイは椅子から動けない私のもとにさっさと近づくと、頭を撫で、自分もかがみ
目線を合わせる。
「ナノ……この間はすまなかった。あんな手法、俺は賛成出来なかったが……」
言わないでほしい。今も、うなされているんだから。思い出したくもない。
「だが……あのときの君は本当に可愛かった。他の役持ちにどうか出て行ってほしい
と懇願し、叶えられず泣きながら、皆の前で俺に後ろを向ける君は、本当に……」
思い出させないで!
「そんなに怖がらないでくれ。あれは君へのささやかな罰で、君がまたひどく抵抗
しない限り、もうあんなことはしない。だから顔を上げて。俺と楽しもう」
私はゆっくりと顔を上げる。身体の守りを解き、機械のように動き出す。
本当は顔を上げたくないし動きたくも無い。
でも怖い。
グレイが、その背後の役持ちが。
あんな人の心をズタズタにするようなことを、またされるくらいなら。
「ナノ。椅子から下りなさい」
「……はい」
椅子から下り、うつむいたままグレイの前に立つ。
「ん……っ」
抱きしめられる。ナイフの鞘が少し痛い。あまりにも圧迫され、骨に影響がないか
本気で気になった。
「顔を上げて」
「…………」
言われたとおり顔を上げると唇が重なる。
熱い。舌が絡み、髪が乱れるのも構わず手で頭を固定され、動けない。
「ん……んん……っ」
苦しくなってつい声を上げるとやっと力がゆるんだ。
顔が離れ、苦しさであえいでいると、グレイが優しく私の手を取る。
「さあ、行こう」
「はい……」
逆らわなければと思う。抵抗の意思を示さなければと。
でも身体はグレイの歩調に合わせて動き、ベッドに着けば靴を脱ぎ自分から上がる。
グレイも上がり、横に座る。
肩を抱き、またキスをし、優しい言葉をかけながら胸の辺りからゆっくりと愛撫を
し始めて。でも私は何一つ抵抗しなかった。
上着のボタンが外され、肩をむき出しにされ、肌着を下げられる。
グレイの手が、外気に晒された胸に伸び、弄り始める。
「ん……ん……」
身体の奥に熱がともる。
「ナノ。君も俺の身体に触れてくれ」
手首を握られ、彼の×××に導かれる。もう布地を押し上げ始めているそれに触れ、
手で上下する。グレイがベルトを外し終えたので、ジッパーを下ろし、手伝って
もらいながら×××を出す。
そのまま手でさすると、グレイが満足そうに頭を撫でてくれた。
だからかがんで口に含み、奥まで入れる。口を前後させ、舐め上げていると、
「ナノ……」
グレイが私の名前を熱く呼び、こちらの頭に手を添えて一緒に動かし始めた。
ちょっと苦しいけど私は抵抗しない。

あれ以来、抵抗を止めてしまった。
従順に従い、求められる行為に応じ、要求されるプレイを拒まない。
人数が増えても文句は言わない。権利が行使されなくとも不満を口にしない。
そうなった私に、役持ちは満足したようだ。
私はいつも怯えている。
味覚が失せ、食べ物をあまり口にしなくなったのはその頃からだ。

…………
時間がいつなのか分からない。
明かりが消えたときが夜なのだと思うことにしている。
光源はベッドサイドのランプの明かりだけ。
トカゲのタトゥーをぼんやり見上げていると、グレイがキスをしてくれた。
「ナノ、動くぞ」
「ん……」
奥深くまで埋め込んだグレイはゆっくりと動き、私は足を開き、彼を受け入れる。
「あ、あん、やあっ……」
打ちつけられるごとに肌がぶつかる音がする。
身体はまだ恐怖で支配されているけれど、責め立てられるごとに、あふれる愛液が
少しだけ怖さを忘れさせてくれる。
「グレイ……」
この瞬間の『飼い主』の背中に手を伸ばし、抱きしめると、それだけ強く打ちつけられる。
「あ、あ、やん……あ、あ、ああっ」
次第に激しくなる耳元の息づかい。ぐちゅぐちゅとかき回され、抉られ、次第に何が
怖かったのか分からなくなっていく。
「グレイ……もっと……すごく、気持ち良い…ああ……」
「俺もだ、ナノ……っ」
もう一度キス。いやらしく舌をからめ、結合を強くする。
「もっと強く突いて、やあ、あ、あ、あ……っ」
良すぎて頭の奥がじんじんする。触れられるたびに熱く、もう何もかもがどうでもいい。
「そうだ。君もそうやって、この行為を、楽しめば……」
私の反応を見て取ったグレイが言う。
分からないままに何度もうなずく。
「ナノ……好きだ……ナノ……!」
何度も名前を呼ばれ、激しく突き上げられる。
言葉も忘れるくらい私はみっともなく嬌声を上げ、グレイを抱きしめ、乱れた。
「あ、あ、ああ、あああっ!!」
声を上げて、汗ばんだグレイの背中にしがみつく。
同時に最奥に熱い迸りを感じ、焼けるような感覚に声を上げ続けた。
「はあ……はあ……」
グレイがゆっくりと出、私を優しく抱きしめてキスをした。
「ナノ……愛してる……」
私は応えなかった。
ただ熱が冷めた頭で、自分が世界一汚いものになったように感じていた。

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