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■美術館に来ました

 そこは、墓地に美術館が併設されているという前衛的なところであった。
 私はユリウスに手を引っ張られ、歩いていく。
「あのお、私はどうなるので?」
 ユリウスはでかい。悪い人には見えないが、身長差がすごい。
 明らかに二メートル近い。間近にいると怖いものがある。
 ちょっと引き気味な私である。
「どうもこうも。そんななりで街をうろつくつもりか。
 他の役持ちに保護されるならまだいいが、怪しまれて撃たれるかもしれないぞ」
「……はい」
 私の格好はかなりひどい。服が汚れ、あまり見たくないがアザとかもある。
 ただ、殴られたとか虐待を受けたという感じではない。
 さながらどこかから逃げ、必死に森を走ってきたような……。

 ただ詳しいことを思い出そうとすると、頭にもやがかかったようで何も分からなくなってしまう。
 そうしているうちに、美術館の入り口についた。

「ユリウス! 遅かったな」
 入り口前に、ユリウス並みにでっかい人がいた。
 シャベルにカンテラ、そしてゴーグル。
 建築業の方であろうか。

「エースがさっきまで居座っていて大変だったぜ。
 もっと早く帰ってきてくれたら良かったんだが」
「数発撃って追い返せ。甘い顔を見せればつけあがられるぞ」
 ユリウスはにべもない。
「お?」
 シャベルの人は私に気づいたらしい。
 夜目でよく見えないのか、目をこらすように私を確認。
 ユリウスに小指をそっと立て、
「……これか?」
 うわー。おっさんだー。
「そんなわけがあるか! よく見ろ」
 と私を前に立たせる。う。美術館の明かりがまぶしい。
「っ!! どうしたんだ、お嬢ちゃん!
 ……いや、言わなくていい。辛い目にあったな。だがもう大丈夫だ!」
 わ。すごく心配されている。
 そして大いなる勘違いをされてる気がする。
「おまえこそ落ち着け。そういった傷ではないだろう。
 だがいちおう医師に見せたい。シャワーと、それと服を」
「ああ、まかせろ!」
 男はすぐ、近くにいた人に指示を出す。彼は偉い人のようだ。
 そして私を再度優しく見下ろし、
「俺の名はジェリコ=バミューダ。もう心配はいらねえ。安心してくれ」
 そもそも記憶喪失だし、何を心配すればいいのやら。
 そして初めて知り合った人たちに心配されまくり、私は美術館の中に
招き入れられたのだった。

 …………

 ぐーぐーぐー。

「おい、起きろ!!」
 耳元で怒鳴られ、ハッと目を覚ます。
 ここは!? あ。そうだ。美術館の客室だ。

 あの後、本当にお医者に診せられた。
 幸い、打ち身や軽い擦り傷の他は異常なしだった。
 ただ記憶喪失は対処しようがなく、経過観察とのこと。
 その後、客室に案内され、シャワーを浴びてベッドでさっさと寝てしまった。
「珈琲!!」
 まだ飲んでいない!!
 そう叫ぶと、ため息をつかれた。
「真っ先にそれか。元気そうだな」
 客室にいるのはユリウスである。
「おはようございます、ユリウスさん」
「ユリウスでいい。いいから起きろ。おまえは二十時間帯も寝ていたんだ。
 身体に異常はないな?ジェリコが心配している。食堂で朝食を取れ」
「しかし目覚めの五杯六杯七杯を飲まないことには、一日の始まりが!!」
「何杯飲んでから始めるつもりだ!!
 空きっ腹のカフェインは胃に悪い。いいから起きろ」
 これ以上ごねていたら、ベッドから蹴落とされそうな気がして、渋々起きる。
「食堂で待っているからな」
 ユリウスはそう言って、出て行った。
 
 …………。

 就寝中のレディの部屋に入ってくるとは、あんまりな。
 私は肩を出したネグリジェ姿だったのに。
 ユリウスは私を知っているらしい。
 やたら気安いのはそのせいか。
  
 そうだ、ユリウスに私の過去を聞かないと!
 用意された真新しい服にそでを通し、私は急いで身支度をした。

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