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■出会い? 再会?

※長編1主人公(長編1知識不要ですが、0〜10章程度を読んでおくと
話が分かりやすいです)
※主人公設定:珈琲をほぼ極めている。重症のカフェイン依存症。

※別のクローバーの国で「+墓地&美術館」「−帽子屋屋敷」
※ユリウスはハートの国のユリウス。美術館在住
※ユリウス、エース以外は初顔合わせ設定
※ライバル役なし。不思議の国の生活をのんびりと。

 …………

 冷たい風を感じて目を開けると、あたりには暗闇が広がっていた。
「……?」
 私は身体を起こし、怪我をしていないか確かめる。
 目に見える場所がすり傷やアザだらけ。
 ついでに言うと服も汚れている。
 明らかに事件に巻き込まれたあとだ、これ!!

「い、いやいや……」

 そーっと立つが、予想した『痛み』はない。
 ということは、どこぞの男に何たらされたワケじゃあない!
 良かったぁ!!
 
 良くない。ここに至る経緯を思い出そうとしても思い出せない。
 ただ何かから逃げていた気はする。
 
「困りましたね……」
 
 立ち上がり、キョロキョロする。
 どうやら木の根元に転がっていたようだ。
 持っているものは何も……ん? 草むらに何か落ちている。

 拾ってみると、袋だ。振ってみるとガサガサ音がする。
 くんくん。珈琲豆だ、これ。
 
 カフェイン!!

 全身が一気に覚醒する。
 元気が出た気がして歩き出した。
 い、いたた。ずっと寝ていたのか身体が痛い。

「それにしても、どこに向かうべきですかね」
 ……何だか既視感が。
 自分は何度も何度も、同じ事を繰り返してきたような気がするというか。
 い、いやいや。それ、ちょっと怖いですよ。

 困ってキョロキョロ周囲を見る。
 遠くにクローバーの塔、ハートの城、そして割と近くに美術館が見えた。

 …………。

 今、何かスッと地名が出てきましたな。
 
「ま、まあいいですか。あ。あはははは……」

 冷や汗をかき、行き先を決めることにする。
 …………。
 どうしよう。どこに行っても嫌な予感しかしない。
 し、しかし早くしないと珈琲が飲めない……。
 ウロウロとその場を行ったり来たりする。 
 そして決められないでいると、ガサッと近くで音がした。
「きゃっ!!」
 クマか痴○か、危ない人かとすくみ上がった。

「……ナノ?」

 その声に振り向く。聞き覚えがある! 間違いなく知っている人だ。
「ナノ!! どうしたんだ! ここはクローバーの国だぞ!?」
 ……ええと。どなた?
 その人はまっすぐ私のところに駆け寄ってきた。
 私の肩につかみかからんばかりだったけど、グッと直前で立ち止まってくれた。

「ナノ! どうしてここに来た! おまえは確か引っ越しで……!」

 切った方がいいんじゃないかと思う長髪。
 暑そうなロングコート。
 歩いてたら、うっかり落としそうな場所に装着してる眼鏡。
 随所に時計。特に腰のそれは明らかに重いだろうに。
 私は知っている。この人は……。

 その人は私をのぞきこむようにし、心配そうに、だが安心させるように微笑む。

「ひどい状態だな。よくこの国まで逃げてきた。
 ここには奴はいない。もう心配はいらない」

 ど、どうしよう。
 あきらかに、私が知っている前提で話しかけてきてる。
 だが名前が思い出せん!!
 オロオロしていると彼が眉をひそめた。様子がおかしいと思ったようだ。

「……ナノ? どうした?
 まさか、あいつに口もきけないほどひどいことを!?」
 そう行って毒づく。あいつって誰すか。

 ああああ! し、仕方ない。思い切って本当のことを話そう。
 きっと驚かれると思う。
 信じてもらえないかもしれないけど思い出せないものは思い出せないのだ。
 腹をくくろう。

「い、いや、その。実は私、記憶喪失で……」
「何だまたか。よし、とりあえず美術館に来い。
 私は今、そこに住んでいる」
 アッサリ流された!!
『何だまたか』って!! 記憶喪失って重大なことなんじゃ!?
 あっさり手をつないで引っ張っていかないで下さい!!
 
「ああああの、どちらに向かわれるのですか!? 
 焦って問うたが、
「だから美術館に住んでいると言っただろう。
 相変わらず×××だな、おまえは」
 初対面の相手に罵倒された!
 いや、初対面じゃないんだっけ?
 私はどうなるんですか? いやそれよりも!
「あの、珈琲を淹れたいんですが」
 主張すると、男がピタリと止まる。

 振り返った顔は苦笑していた。
 その優しい顔に、なぜかドキリとする。
『記憶を失っても、それだけは変わらないな』と、大きな手が私の頭を撫でた。

「私はユリウス=モンレー。おまえの――」

 なぜか言葉を切る。
 その後に何が続くのだろうと思った。
 彼はもう一度私の頭を撫で、少し寂しそうに、

「おまえの知り合いだ」

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