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■はた迷惑な争奪戦・6

「ナノ……そ、そんなにくっつかないでくれ、今自分がどういう格好なのか分かってるだろう!?」
「だ、だって不安ですよ。今は夢の中じゃないんですから!」
上半身に何も着ていない私と、私を抱きしめ塔の外を飛ぶナイトメア。
こんな状況でなければ夜の空中散歩を楽しみたいけど、それどころじゃない。
私はぎゅっとナイトメアの身体にしがみつき、ナイトメアはあたふたしながらも私の背を抱きしめてくれる。
「全く、会合のルールを無視してどいつもこいつも……」
「す、すみません……」
何だか責められている気がして、つい国の領主に謝る。
するとナイトメアは慌てて、
「ん?君のせいなわけがないだろう……」
と言いかけ、ニヤリと笑う。
「いやいや君のせいなことは確かか。いやいや全く、罪な可愛さというか」
――うわあ、叩き落としてえな、こいつ。
「おい、ナノーっ!!」
泣き出しそうなナイトメアに微笑む。
「冗談ですよ。本当にありがとうございます」
マフィア憎しの正義感で、グレイまで冷静さを失った混乱状態だ。
助け出してくれたナイトメアには本当に感謝している。
するとナイトメアは複雑そうな顔で、
「いや、あいつは正義の味方だからマフィアたちに熱くなってるわけじゃなく、君だから……」
そう言いかけ、ナイトメアは言葉を切って笑う。
「ま、いいか。今回は私の役得だ。たまには美味しい役をもらわないとな」
「?」
私は首を傾げる。やがてナイトメアは窓の開いている一室を見つけ、中に入った。
ようやく足が地面についてホッとする。
真っ暗で静かな客室だった。私は人心地がついて息を吐いた。
「ありがとう。ナイトメア」
振り向いて笑うと、
「ナノ!胸!胸を隠しなさい!!」
「あっ」
普通に胸を隠さずナイトメアに向き合っていた。
鼻血を出しそうな……と思っていたら鼻血を出し始めるナイトメア。
お約束な人だ。
「それはいいから、胸を!」
「はいはい」
ナイトメアに言われ、私は慌てて胸を隠す。
そういえばさっきから露出狂のような格好だ。
「全く。もう少し警戒心を持ったらどうなんだ」
「そうなんですが、ナイトメアはどうも男性という感じがしなくて」
空いた方の手で頭をかく。
「ナノ……本気で泣くぞ」
そう言いながら、ナイトメアは上着を脱いで私の肩にかけてくれた。
温かい。私は微笑んだ。ナイトメアも笑ってくれる。
「では部屋に帰ろうか」
「はい」
私の手を取って導くナイトメアは、久しぶりに、夢の中のように頼りがいがあって見えた。

……その直後に吐血して意識を失わなければ。

「医者ーっ! お医者様はどこかにいませんかあっ!!」
私は吐血するナイトメアを背負って、クローバーの塔の廊下を走っていた。
ナイトメアの上着はボタンがない仕様で、走ると私の前がチラリズムとか、非常に気になるけど気にしてはいられない。
「ナイトメア様ーっ!!」
私の叫びが功を奏し、ほどなくして、塔の職員さんがわらわらと集まってくれた。
後は彼らにお任せすれば大丈夫。
テキパキと担架に乗せられ、搬送されていくナイトメア。
私はそれを安堵して見送りながら、
――空中浮遊中に意識を失われなくて良かった……。
と心底から思っていた。
「あの、ナノさん……」
「はい?」
職員の人の一人が、目線をそらし気味に私に言う。
「あの、それで、ナノさんのその格好は……」
「っ!!」
それはそうだ。上半身裸にナイトメアの上着。
私は今度こそ羞恥に真っ赤になった。
「あ、後はよろしくお願いしますね!!」
私は前を押さえ、全力で廊下を駆け去った。

「はあ……もう、とんでもない夜でした」
未だ開けない星空を恨めしく見ながら、私はトボトボと廊下を歩く。
何だかすごく疲れてしまった。とはいえ、あと少しで私の部屋だ。
全く。役持ちの人たちも、私を追い回して遊ぶくらいヒマなら、皆でサッカーでもすればいいのに。
「……想像がつきませんね」
自分で考えておいて本っっ当に想像がつかない。
「何が想像つかないって?」
「いえ、ちょっと――」
言葉を切る。
ゆっくりと振り向いた。

壁にもたれ、ハートの騎士エースが立っていた。


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