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■はた迷惑な争奪戦・5

私は慌てた。
「ちょ、ちょっとグレイ!? 前は自分で点検したから大丈夫ですよ!?」
けれどグレイは私の両腕を押さえ、裸の上半身をじっと眺めている。
……恥ずかしい。非常に恥ずかしい。私はもじもじと身じろぎする。
自分で確認しないと気が済まないのだろうか。
グレイの心配性にも呆れる。
女性へのマナーが分からない人ではないはずなのに。
まあ口では私のことを女扱いしてくれてはいるけど、グレイは大人だ。
きっと私は、危なっかしい子どもにしか見えていないのだろう。
それにブラッドの名を出すと、グレイはどうも過剰反応するように見える。
まあお役所と犯罪組織だから水と油でおかしくないけど。

「グレイ……あの、恥ずかしいですよ」
私が困って見上げる間も、グレイは何かと必死に葛藤しているようだった。
見た事もない苦しそうな顔だった。
もしかすると、私がブラッドに何かされたことに勝手に責任を感じているのだろうか。
「グレイ。私は大丈夫ですよ?あなたが守ってくれたんですから」
実際のところ、以前のあのお茶会にグレイが乱入してくれなかったら、果たしてブラッドの元からちゃんと帰れたかどうか。
拘束され、体力の回復を待って改めて『ブラッドの女』にされた可能性もある。
そう考えるとグレイには感謝するばかり。
私が微笑むと、グレイは一瞬息を止め、
「ナノ……!」
とても、とても苦しそうに身を沈め、私の上に覆いかぶさった。
「!?」
素肌の胸に直接グレイのコートが触れ、私は緊張した。
けれどグレイは私を抱きしめ、耳元に口を寄せる。
そして低い声で、

「ナノ。俺は必ず君を守ってみせる。マフィアには決して渡さない!」

グレイはやけに熱い。
マフィアがそんなに憎いんだろうか。
クールに見えて正義漢の人なんだなあ。
そして、どこまで悲劇のヒロイン認定されてるんでしょうか、私。
「……ど、どうも」
でも押され気味な私は、そう答えるのが精一杯だ。
というか煙草の臭いで少しむせそう。
一度よく見てみたいと思っていたトカゲのタトゥーが間近に見える。
と思ったらグレイは顔を上げ、私を見る。
男性なのに本当にきれいな人だ。
見とれる私の近くで、グレイはなおも苦しそうに言葉を紡ぐ。
「だからナノ。どうか、俺と……俺と……」

「お嬢さんから離れてもらおうか、トカゲ」

氷のような声がした。

グレイは本物のトカゲのように素早く起き上がり、私を背に庇う。
声で分かる。
ブラッド=デュプレが入り口で私たちを見ていた。

ブラッドは上半身裸の私をチラッと見、グレイに、
「お嬢さんの身体の所有印を見て分かっただろう。彼女が誰の物かを」
「女に無理強いをし、何が所有だ!ふざけるなっ!!」
グレイは怒りの咆吼を上げて立ち上がると、短剣を抜き放つ。
早くも臨戦態勢だ。
私も慌てて胸を隠し、服に手をのばす。
「ああ、お嬢さん。服を着る必要は無いよ。どうせトカゲを追い出した後ですぐ続きをするのだから」
ブラッドはとんでもないことを言う。
「黙れっ!帽子屋!!」
グレイがブラッドに飛びかかる。
瞬間に火を噴くマシンガン。
「わ、わわっ!」
まさか私に当てないだろうけど、私は服を着るどころではなくなり、ベッドから飛び下りて安全を確保する羽目になった。
――ど、どうしよう……服はベッドの上にあるのに……。
頭上に響く、銃声と短剣の打撃音。
もう危なくてベッドに顔を出せない。
胸を隠しながら困っていると、窓辺から声がした。
「ナノ。ナノ、こっちだ、こっち」
私は顔を上げた。
窓の外の夜景に、ナイトメアが浮いていた。


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