続き→ トップへ 小説目次へ ■はた迷惑な争奪戦・2 「君、大丈夫?俺はボリス=エレイ。 ハートの国では遊園地に住んでたから、君とは会った事がなかったよね」 エースを銃で狙いながら、猫さんは自己紹介する。 「あ、初めまして。私はナノと申します」 とりあえず礼儀正しさが売りの日本人として、地面に転がりつつご挨拶をしておく。 すると猫さんは金色の目を細めて笑った。 「はは。君って噂通り、のんびりした子だね。何か気に入っちゃった」 挨拶ではなく、のんびりという点が受けたらしい。 でも今の自己紹介にそんな要素があっただろうか。 すると剣を構えたエースがボリスに、 「おいおい猫くん、君まで彼女を口説かないでくれよ。 最近競争率高くて困ってるんだよね……こんなことならユリウスに気を使わないで無理やり俺のものにしておくんだったな」 ……今、何だかとんでもないことをボソッと呟いた気がする。 「あ、でも、今からでも遅くないか」 …………さらにとんでもないことを追加で呟きやがった。 今後、何があっても暗い夜道は歩かないようにしよう。 「あ、あのさ騎士さん。女の子はもっと大事にしようよ」ボリスが引きつり気味に注意してくれる。何だか猫さんへの好感度が上がってきた。 エースは笑いながら、 「するする。大事にするよ。俺のものにした後でいくらでもね」 嘘だ!絶対に嘘だ!! とはいえ猫さん対騎士では、申し訳ないけど動物さんに分が悪い気がする。 「猫さん、ありがとうございます!」 私はお礼だけ言って立ち上がると走り出した。 「あ、ちょっと待ってくれよナノ!」 けれど猫さんが銃を発砲し、私を捕まえようとしたエースを妨害してくれた。 「騎士さん、俺の事あんまり舐めないでくれよ!! あとナノ!俺の名前はボリスだからね!!」 「はいです!猫さん!!」 「だからボリスだってば!」 ――猫さん、後でマタタビ持ってご挨拶にうかがいますから! 私は撃ち合いを背に走り出した。 クローバーの塔の夜は、未だ明ける気配もない。 「と、とりあえず執務室に戻らないと」 あそこは安全だ。ナイトメアやグレイに守ってもらえる。 走り疲れた私は、疲労とさっきの打ち身でよろめきながら、歩いていた。 「ちゅう?」 そこに声がした。 「え?」 私が警戒しつつ顔を上げると、柱の陰から何かが私を窺っていた。 彼とは初めて対面する。会合で見かけた役持ちの人だ。 とりあえずご挨拶しておくことにした。 「こんにちは」 「こ、こんにちは……ちゅう?」 ちゅう……ちゅう? 「ネズミさんですか?」 「うん、ネズミだよ、ほら、耳も尻尾もあるでしょ」 警戒に若干毛を逆立てながら教えてくれた。 とはいえ、この人は、あの馬鹿馬鹿しい争奪戦には参加していないらしい。 私は少しホッとして、好奇心もあってネズミさんの方に歩いた。 するとネズミさんはビクッとして怯えたようだ。 「な。なに!?何なの?君も俺のこといじめるの?」 君『も』?でも何となく分かる気がする。 このネズミさん、雰囲気的にいじめられっ子体質だ。 「いじめませんよ。私とお話しませんか?」 そして、ついでに耳を触らせてくれませんか? 「ちゅう……そしたらちゅうさせてくれる?」 「させません」 否定すべきはキッパリ否定するのがこの世界の処世術である。 「くすん……皆が君のこと好きみたいだから、どんな子かと思ってボリスと君を見に来たのに……やっぱり君もネズミをいじめるんだね」 被害妄想の実に激しい子でした。 「いじめませんよ」 私は笑顔でチッチと鼠鳴きをして手招きする。 するとネズミさんもおずおずと柱から出て来た。 やがて触れる距離に来た。 「よしよし」 「ふふっ。く、くすぐったいよ」 頭を撫で、念願の獣耳に触れるとネズミさんは嬉しそうだった。 ――って初対面の男性にどういうマナーですか、私! ある意味、私にさえこういう扱いを受けてしまうキャラの人とも言えそうだ。 私は少し顔を赤くして手を離し、頭を下げる。 「私は余所者のナノです。どうぞよろしく」 「ちゅう?お、俺、ピアス=ヴィリエ!それじゃあ、ちゅうしよう」 「しません!」 でも今度はピアスも引いてくれない。 「でも俺、君が好きになったんだ。俺のこといじめないし頭撫でてくれたもん。ちゅうしたい!ちゅう!!」 どういう好意の基準だろう。 と思う間にピアスは私を抱き寄せてきた。 「し、しません、ちゅう、しませんってば!」 「ナノ、可愛い!」 このネズミさん。いじめられっ子そうな外見に関わらず意外と力が強かった。 もがいても叩いてもビクともせず、顔を寄せられる。 息がかかる距離に顔が近づき、私が本気で焦ったとき、 「お姉さんに触るな、ネズミ!!」 「うわっ!」 ピアスの力がゆるみ、私は慌てて後ろに離れる。 すると誰かが私を支えた。 「お姉さん、大丈夫?危ないところだったね」 黒スーツの青年二人。成長期にもほどがある双子の門番だった。 4/6 続き→ トップへ 小説目次へ |