続き→ トップへ 小説目次へ ■会合の真意 その夜の時間帯。 会合に疲れ果てて帰ってきたナイトメアは、私に問いただされたのでありました。 ソファに座ったナイトメアは向かいの私に、申し訳なさそうに言った。 「すまん……今回の会合では君の処遇について延々と話し合っている状態なんだ」 「……はあ。そうですか」 傾国の美女でもあるまいに、何故に国の権力者が集まって私なんかのことを。 「そんなことで大丈夫なんですか?この国の未来のこととか、行政の今後のこととか、話し合うことはいくらでもあるでしょう?」 けれどナイトメアはきっぱりと否定した。 「それはないな。この世界では常に『今』が一番大切であり、未来なんて不確定なものを議題に出そう物なら失笑されるのがオチだ」 「???」 権力者が国の行く末を考えないどころか、考えたら逆に笑われる? けれどナイトメアはさらに続ける。 「会合での話し合いなんか無意味なものだ。とにかく集まることが重要なんだ。 催しでは集まらなくてはならない。集まることが第一義であり、話し合いの内容は二の次なんだ」 私の脳内にさらなる疑問符が吹き荒れる。 もしかすると壊滅的に頭が悪いのだろうか、私は。 グレイさんも横から 「むしろ、君の存在は無意味な会合に飛び込んできた唯一『話し合う価値のある議題』だったんだ。 だから今回の会合では、かつてない勢いで意見が交わされているし、君と接点のない森の連中でさえ積極的に発言している。 主催側としては君に感謝してもし足りない気分だよ」 「…………」 まともだと思っていたグレイさんまで何を言い出すんだろう。 無言で混乱しつづける私に、ナイトメアは苦笑する。 「必ずしも理解する必要は無いよ、ナノ。ただそういう『ルール』の世界なんだ。 君の元いた世界と私の世界が違う。それだけのことだと思っていればいい」 というわけで、とナイトメアは言葉を切る。 どうも会合の真意に関する話題はあまり続けたくないらしい。 「グレイー!私は疲れたぞ!!何か甘い物が食べたい!! 何か用意しろっ!!」 ソファにふんぞりかえって足をバタバタさせ、駄々をこねる。 「分かりました、少々お待ちください」 けれどそう言うグレイさんも少し疲れ気味だ。 見たところ、これから整理するらしい書類も抱えている。 私は立ち上がった。 「私が何か作ってきますね」 すると、二人は驚いたように私を見た。 「ナノ……その、大丈夫なのか?」 グレイさんが聞く。もちろん大丈夫。 さっき紅茶も淹れられたし、ナイトメアが用意してくれた厨房を使ってお礼したい気持ちもある。 「私のことを話し合ってお疲れになったんだから、私がねぎらわせていただかないと」 それにグレイさんはブラッドに反論して私を守ろうとしてくれた。 私はグレイさんに微笑んだ。 そういえばクローバーの国に来てからほとんど笑ったことはなかった気がする。 「――っ!!」 「グレイさん、どうかしましたか?」 私が笑ったその瞬間、なぜかグレイさんが真っ赤になったのだ。 もしかして会合で疲労して熱でも出たのでは……と不安になる。けれど、 「ナノ!」 「は、はい?グレイさん」 勢い良く名前を呼ばれ、少し驚いた。 「俺の事は!グレイと呼んでくれ!頼む!」 「え?あ、は、はい。グレイさん……グレイ」 するとグレイさ……じゃない、グレイは顔を赤らめたまま、嬉しそうに何度もうなずいた。 よく分からず補足を求めてナイトメアを見ると、 「ああ……また競争相手が増えた……」 彼は彼でうなだれ、心底嫌そうな顔でグレイを見ていた。 私は奇妙な人々に首を傾げつつ、執務室を出た。 1/6 続き→ トップへ 小説目次へ |