続き→ トップへ 小説目次へ ■会合は踊る・後 そしてそっと開ける。 ――う、うわ……。 どれくらいの人間が集まっているのだろう。 それくらいの人、人、人だった。 その中心で、ナイトメアが必死の勇気を振り絞って熱弁していた。 主催者の演説中なら、下手に割って入ると白い目で見られそうだ。 私は気づかれないように中に入り、書類を届ける隙をうかがった。 ナイトメアは会議場の中央で、緊張でガクガクしながら必死に言葉を続けている。 「……であるからして、時計塔の保護下にあった。 よってクローバーの塔が引き続き保護するのが最適と、お、思われる!」 後半、緊張で聞き取れないほどの早口になりつつも演説を終える。 どうも何かの帰属問題を話し合っているらしい。 重要な土地や財産の話だろうか。場違い感に、なおさら私は縮こまる。 そしてナイトメアの必死の努力を嘲笑うように、別の役持ちが立ち上がった。 彼の事はずいぶん久しぶりに見る気がする。 私をこの世界に連れてきたらしい白ウサギ、ペーター=ホワイトだ。 今は赤と黒のスーツ姿で、宰相然とした冷徹な態度で反論する。 「それには根拠がありません。時計塔の所属と判断されたのなら、一緒に引っ越したはずです。 ですがクローバーの国に来たというのは、所属が別にあると見なされたということ。 それはどこかというなら、僕!この僕です!!僕以外にありえません!!」 前半はまともだったが、後半にかなり電波が入っている。 とはいえ執着の対象が私以外にもあったらしいことが分かり、安心した。 するとペーターの言葉を受けるように、別の役持ちが立ち上がる。 あの崖を落ちて、やっぱり生きていたか。 同じくスーツに衣替えしたハートの騎士、エースだった。 「所属がどことか、俺にはどうでもいいけどさ。彼女、ユリウスに面倒見られてたからさ。 だからユリウスの親友の俺が、代わって面倒を見る方向でいいんじゃないか?」 あのエースに面倒を見られるとは……どこの不運な女性だろう。 え……待てよ? すると初めて見る、気品をたたえた女性が口を開いた。 「わらわにも異存はない。城に忍び込み、紅茶を盗むどころか、わざわざ返しにきた。 肝のすわった娘だと思わぬか。ハートの城はその娘を喜んで引き取るぞ」 ――…………。 私の頭に『まさか』という警鐘が鳴る。 どうも居づらくて、身体がそわそわし出す。 すると、やはりいた、帽子屋ブラッド=デュプレが口を開いた。 「話にもならんな。ナノは最初から帽子屋屋敷に所属し、我々と生活していた。 なら行き場のない彼女を我々が受け入れるのは当然のことだ」 もう、彼らが何について話し合っているか分かってしまった。 ――こ、こんな重大な場で何を議論してるんですか、この人たちは!! 冷や汗がだらだらと流れる。誰かに見られているわけでもないのに心は針のむしろだ。 すると補佐のはずのグレイが立ち上がり、舌鋒鋭くブラッドに噛みつく。 「なら彼女が滞在中に帽子屋屋敷を出たのは何故だ! マフィアを嫌忌しての事ではないのか? 望まない場所に彼女を連れ戻すことには、塔として重大な疑念を呈する」 だけどブラッドは冷ややかに応じた。 「塔として、ではなく君の疑念だろう。私情と公式見解を混同しないでくれ」 ――い、いや公式見解も何も……というかそれ以前の話では。 そしてブラッドがさらに続ける前に、ウサギ耳の人が勢い良く立ち上がる。 「トカゲ!ナノは喜んで俺らに紅茶を淹れてくれたぜ! ナノはブラッドを好きだし、将来組織の姐さんになるんだよ!」 ――え、エリオットぉ!! 何だかえらく発想が飛躍している。 というかその発言は議論から微妙にずれている。 「僕らはお姉さんが大好きだから守ってあげたいよ」 「塔や城なんかに預けられないよね」 双子も相変わらずだった。すると別の役持ちが発言した。 「ていうかさあ、そんなにもめるなら、いっそ全く無関係なとこに預けたら? 俺、その余所者の子にすっごく興味あるんだよね」 初めて見る……ええと、とても素敵なセンスの猫さんが発言した。 「俺も俺も!そのナノって子にちゅうしたい!!」 同じく初めて見る……クマ?ネズミ?のような人が無邪気に話す。 そして再び立ち上がるペーター。 「森なんて不衛生な場所に彼女を預けられるわけがありません!! もう会合などどうでもいい。ナノは僕が奪って帰ります!!」 「あ、俺もペーターさんに賛成!女の子って奪われるのに弱いんだろ」 勝手に決めつけるな、てめえ。しかしエリオットもブラッドも、 「何だと!ナノは帽子屋屋敷の人間だって言ってるだろ!!」 「ふむ。宰相殿に奪われる前にマフィアらしく力ずくで持っていくか」 「持っていくだと!?彼女を物扱いするなど……っ!」 「ちょ、ちょっとグレイ!みんな落ち着け……うう、吐血したい」 会議が乱闘寸前になったところで、私はそーっと扉を開けて外に出たのでした。 果てしなく、果てしなく頭が痛かった。 5/5 続き→ トップへ 小説目次へ |