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■お茶会再び

浴室から上がった私は服を着、ベッドに座って身支度を調えるブラッドのところに行った。
「ええと……シャワー、どうも、でした?」
ここの浴室は塔のものなので、お礼も何となく疑問系。
「ああ。こちらもどうにか処理を終えたところだ」
部屋の手洗いで手を洗浄したらしいブラッドも、心なしか疲れたような顔だった。
横に座ると、肩を抱き寄せられた。
私もそれにもたれかかる。
ブラッドの手で感情を爆発させられたせいか、私の心にどこか落ち着きが戻っていた。
ある意味、彼なりのショック療法だったのかもしれない。
「ナノ、今回の会合が終わったら帽子屋屋敷に戻る。支度をしておきなさい」
「戻りませんってば」
「君は私を拒否しなかっただろう。むしろあんなに悦んでいたじゃないか」
「それとこれとは別です」
言うと、ブラッドはため息をついた。
「やれやれ。どうしてこう強情なんだ」
強情も何も、マフィアと肌が合いそうにないと前から言ってるのに。
どうもブラッドは、物なり快楽なり与えれば私が従順になると思っているらしい。
つまりまあ、私たちは思考の根本にズレがある。
そういった意味でも長続きする気がしない。
まあ言っても、さらにこじれるだけなのでお利口な私は黙っている。
「ブラッド、私もう戻りますね」
腕から離れ立ち上がる。
会合中はきれいな人が出入りするというし、ブラッドが夢中になれる対象を見つけられるよう祈るだけだ。
「待て」
ブラッドに腕をつかまれる。
「二戦目はごめんですよ?」
「いいや。君はフラフラじゃないか。やはり少し無理をさせたようだ」
言われて見ると、私は数歩でちょっとヨロヨロしていた。
「ご飯を食べに帰りますよ」
「いいや。一緒に食べよう。それくらいなら叶えてくれるだろう?」
ブラッドが手を叩く。
するとそれが合図だったのか、扉が開いた。
「ナノ!」
「お姉さん!」
「お姉さん!」
中に走って入ってきたのはエリオットと……誰?
見た事のない男性二人だ。
「そんなに緊張しなくてもいい。あれは門番たちだ」
「え!?」
「まあ、すがりたいなら、もう少しすがっていてもいいがね」
ブラッドの声に自分を見下ろすと、私は両手でブラッドの腕にぎゅっとしがみついていた。
だ、だって……知らない大きな男性二人が入ってきたら誰だって驚く……多分。


その帽子屋幹部のための小規模なお茶会は……相変わらず橙一色に包まれていた。
私はそれを細々とつつく。
でも、以前と比べて段違いには食べている。
これだけ食べるようになったことを知ったら、きっとナイトメアもグレイさんも驚くだろう。
が、腹心はそれ以上のペースを強要する。
「ナノ! どんどん食べてくれ!あんたすっかりやせっぽちになったもんな!」
「い、いえ、エリオット。もう大丈夫ですから」
「いいから食えよ!ブラッドと×××するとき体力が持たねえぜ」
「――っ!!」
隠さないセクハラウサギに真っ赤になる。
本人に悪気がないだけにタチが悪い。
「お嬢さん。何を飲みたい。ダージリンでもルフナでも何でもそろっているよ」
余裕を取り戻したブラッドは涼しい顔で紅茶をすすめてくる。
「うーん、そうですね……ちょっとティーポットを見ていいですか?」
私は立ち上がり、ポットの方へ行く。
内輪だけの席なので、お屋敷のときのように、紅茶を淹れる専門の使用人さんはいない。
紅茶はいくつかのティーポットに用意されていた。
でも全て覚えのある匂いだ。
――うーむ。どれも飲んだ事がありますね。
別にそれはそれでいいけど、今はもう少し別の物を飲みたい。
ふと私の目が一点に留まる。茶葉の袋だ。何種類かテーブルに置き忘れられている。
よく見るとティーポットのいくつかは空で、どうも片付けが中途半端だったようだ。
「全く、最近気が緩んでいるな。会合中だというのに」
ちゃんと保管しなければ茶葉は劣化する。
面倒がりなボスに代わり、私はフタくらい閉めるかと、茶葉の袋に手をかける。
――待てよ。お茶の葉と空のティーポット……。
もちろん、湧かした湯も用意してある。
あ、そうだ。と私は思った。


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