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■慰められた話

※R15

「……ん……」
目を開けると、寝台の中だった。
私は身じろぎし疑問に思う。
文句のつけようのない寝台だけど、お世話になっている部屋のベッドとは違うような。
となると、どこに眠っているのだろう。
「起きたか、お嬢さん」
「っ!!」
暗闇に目が慣れると目の前にブラッド=デュプレがいた。
帽子も取り、前をはだけたシャツというラフな格好だ。
私は逃げようと身体を引くけど、弱っている身ではすぐに抱き寄せられる。
「やれやれ。君ほど私を振り回す子は初めてだ。
私に続いて時計屋を落として狂言までさせ、次は夢魔を籠絡し、住み処を用意させる。
引っ越しがあったとき、君を探さなかったのが悔やまれるな。
でなければ芋虫ごときに君を取られたりしなかった」
「ええと……」
私は何となく見上げる。
怒っていないわけがない。
妊娠したなんて大嘘までついて離れようとしたんだから。
「ああ。安心しなさい。もちろん激怒しているよ、お嬢さん」
「で、ですよね」
ブラッドの邪悪な笑いに私は安心どころかビクつく。
そんな私の目元をブラッドは指でこする。
少しくすぐったい。
「可愛い君に、こんなに目を赤くさせ、ウサギのようにした男にな」
そして私の裸の背をより強く抱き寄せる。
――……て、裸?
私は慌てて自分を見下ろす。
……ええと、一糸まとわぬ姿だった。
それで、ブラッドと二人で寝台の中で……ええと。
「まあ、それはそれとしてだな、お嬢さん」
突然ブラッドが身体を起こし、私の両脇に手をつく。
「あのとき時計屋に邪魔された話の続きだ。
私は、私の下であんな顔をしていた君が傷ついたという意見には承伏しかねる」
そして大きな手で私の鎖骨のあたりをなでた。
「ブ、ブラッド……」
「だから、君は自分で確かめるといい。
君が心底から私を嫌いなら、最後まで拒んでみなさい」
「ブラッド……あ、あなたは最低です」
見たところ室内は無人で、こちらはこんな身体。
おまけに弱っている。
この状況でどう拒み通せというのか。
「いや、私は触れるだけだ。
今の君に負担はかけられないからな。
時計屋が本当に君に手を出していないか確かめたくはあるが」
――い、いえ、それはそれで痴漢行為というか……
だがブラッドにとっては最大限の譲歩らしい。
さらなる反論を口にする前に、唇を重ねられた。

暗い部屋に声が響く。
「はあ……あ……やだ……」
「どこが? 言ってみなさい。ここか? それとも、ここが?」
「んっ……!」
肩に歯を立てられ声が出る。
痛いだけなはずなのに、そこから生じる熱が全身に伝わる気がするのはなぜだろう。
胸を揉みしだかれ、全身を激しくまさぐられ、ただでさえ体力が低下している私は刺激に弱い。
けれど、ブラッドは冷静な目で私を見下ろし、少しも息が乱れない。
私はそんなブラッドに見られるのが嫌で、細くなった腕で目をふさぐ。
「私を視界から隠しても同じ事だ、お嬢さん」
「……っ!」
耳朶を噛まれ、刺激がより鋭敏になる。
「ん……や……っ!」
強引に腕を捕まれ外されたかと思うと、再び唇を重ねられる。
この間は、珈琲の味がするとすぐ離れたブラッドは、今は角度を変えながら何度も何度も私の唇を求めてくる。
傷つける気かという勢いで荒々しく中を舐られ、唾液が絡み合う。
それなのに身体が熱くてたまらない。
まるでブラッドの舌に自分の内側の熱が引き出されていくように。
「ブラッド……っ!」
「――っ!」
私が涙を少しにじませブラッドを呼ぶと、ブラッドはなぜか目を見張り、
「……く……っ」
何かをこらえるように目を閉じ、
「お嬢さん。すまないが早く終わらせよう。私が耐えきれなくなりそうだ。
弱っている今の君に、無理はさせられない」
「え……?ぁ…っ!やっ!」
ブラッドの指が、全身で最も熱い場所に伸びる。
すでに液で溢れたスリットは、少し指で擦られただけで悦びに大きく震える。
喉から、自分のものとは思えない声が出、それを聞いたブラッドはさらに苦しそうな顔になる。
そして、そのスリットに深く指を潜り込ませ、さらに激しく責め立てる。
「ぁ……ぁあ……っ」
与えられる快感に声が出る。
以前はそれがとても怖かった。でも今は、それよりも罪悪感を抱く。
――ユリウス……。
「奴のことを思い出しているのか? 私と過ごした時より遙かに短い時を共有した
だけだろう。身体をつなげたわけでもない男に、なぜそこまで操を立てる!」
ブラッドは再び余裕が消えている。
何だか嫉妬にかられているようだった。
私をさらに責め、より敏感な箇所を指で擦る。
私はそれに喘ぎながら言葉を探す。
「ユリウスは……」
ユリウスは、何なのだろう。
分からない。
好きだったけど恋していたわけではない。
だけど大切な人だった。
どこにも行き場所のない人を受け入れてくれる。
寄りかかり、甘えさせてくれる。
そんな人だった。
だから行き場のない私は、彼に強く惹かれた。
彼のそばにいると家にいるように安らぐことが出来た。
涙が溢れる。
時計塔はどこにもない。
「ナノっ!」
ブラッドは本当に苦しそうだった。
彼に翻弄されているのは私なのに、実際には彼が私に翻弄されているようだった。
「忘れろ、今は……」
私は小さくうなずく。そして目を閉じた。
真っ暗な視界の中で感覚はより鮮明に。
ブラッドの指が最も敏感な箇所を激しく弄り、私の頭が真っ白な炎に包まれる。
音が聞こえるほど、最奥からは液が溢れ、それをからめてブラッドはさらに快感を
与えようとしているのか、指を這わせてくる。
「ブラッド……だめ、もうダメです……っ」
泣きながら叫んだ。
この人がもっと欲しい。
でもそれを許してはくれない。
「構わない。そのまま解放しろ」
そして、最も快感を呼ぶ一点を強く刺激される。
私はそれで限界だった。
「あ……っああっ……!!」
叫び声が出た。
頭が真っ白になって、何もかもが染まっていく。
指の刺激だけで絶頂を迎えさせられ、私はベッドに深く沈み込んだ。


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