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■丸太の上の再会

「行く川の流れは絶えずして、しかも、元の水にあらず」
川を下る丸太の上で正座し、私はぼんやりと方丈記の一節を口にする。
丸太の進む脇に、生まれては消える泡を眺め、
「よどみに浮かぶうたかたは、かつ消え、かつ結びて、久しくとどまりたるためしなし」
そして流れに乗って移り変わる不思議の国を眺めながら、
「私はいったい、どこで寄る辺にたどりつけるんでしょうね」
不思議の国に来てかなり経つが、今頃になって大冒険だ。

崖からのダイブの後、お約束で私たちは川に落ち、急流に流された。
本当はあの高さなら水面も鉄のように硬くなっているはず。
だけど、不思議の国の脅威というか、なぜか落下速度が緩んで二人とも無事だった。
そしてエースさんは、重いコートを着ているにもかかわらず、驚異的な体力で私を抱えて泳いでくれた。
でも剣まで提げて、途中からはさすがに限界だったらしい。
やがて流れてきた流木の丸太を見つけ、最後の力で、無理やり私をそこに押し上げた。
私は丸太に必死で捕まり、
『エースさんも早く!』
と手を伸ばしたけど、
『君が……無事で良かった』
いや、元凶はおまえだろうと突っ込む間もなくエースさんは流れに乗って丸太から遠ざかっていく。
『エースさーんっ!!』
私は叫んだ。

そして流されたエースさんは流れに乗って……川岸にたどりついた。
『あれ? あはは。俺の方が先に岸についちゃった。
じゃあナノ。頑張れよー!』
地面をしっかり踏みしめてこっちに向かって気楽に手を振る騎士。
『てんめえ、後で覚えてろぉぉ!!』
中指立てて怒りの絶叫をあげるのが精一杯だった。

「はあ……このまま海に流されるか沈むのでしょうか」
正座した私は不安を胸に、抱えた玉露の袋を撫でる。
外装の和紙は水に濡れて流れてしまったが、内側の銀の包装が、しっかりと水から茶葉を守ってくれていた。
――最後にお茶が飲みたかったですねえ……。
空を見上げる。
川の流れは緩やかだけど空は夕焼け色だ。
玉露の袋を胸に抱きしめ、私は水面を見る。
「うわあ……きれい」
鉱石が川底に敷き詰められて、夕焼けの光を受け、きらきらと輝いている。
こんな美しい場所があったんだ、と私はすっかり見とれていた。
不安だった心も癒され、何だか嬉しくなる。
そんなうきうきした視界に知り合いの姿が入る。
「え……」
「あ、こんにちはー」
丸太のすぐ近くの川岸に立っていたユリウスさん。
彼を見つけた私は、正座をしながら呑気に手を振る。
ユリウスさんはこれ以上にないほど驚愕に目を見開き、
「え……あ……こ、こんにちは?」
と、困惑しきった表情でユリウスは手をぎこちなく振る。
私もにこにことそれに返し、そして少しずつ距離が離れるなかで二人は沈黙し、

「ナノーっ!!」
「ユリウスさん、助けてくださいぃー!!」

二人同時に絶叫したのだった。


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