続き→ トップへ 小説目次へ ■エースとエリオット・前 陽光射す森の中はとても気持ちが良い。 風が暖かくて、何だかほわほわしてしまう。 「いい天気ですねえ」 「ああ、絶好の旅日和だぜ!」 微笑むと爽やかな笑顔が返ってくる。 そして私はそーっとエースさんの手を離そうとし……強くつかまれた。 「痛い痛い痛いです!」 折る気ですかという握力に抗議すると、 「あはは。ごめんごめん。 君が俺の腕の中から逃げちゃうかと思うとつい焦っちゃって」 私の手首をつかんだまま、エースさんは私の頭を撫でる。 やりとりは和やかだけど、このままでは私はお城で女王様に斬首される運命だ。 ――どうしよう……。 そう思ったとき。 「ナノ!!」 私を呼ぶ声がした。 森の中から現れたエリオットは十数人の使用人さんを引き連れていた。 でもみんな表情が厳しい。 私には見せたことのない怖い顔だった。 「ハートの騎士……てめえ……っ!!」 私の手首をつかんでいるエースを見て、エリオットは怒りに顔を染めた。 「そいつを離せ! そいつはうちのボスの女だ!!」 「ええ!? 君が帽子屋さんの情婦? うーん。とてもそうは見えないけどなあ……」 腕を引かれ、エースさんにまじまじと見られ、さすがに恥ずかしくなる。 ――それにしても、これは助かったと言えるのでしょうか? エースさんは軍事責任者だそうだけど、この人数差ではさすがに多勢に無勢だろう。 そうなると私は皆に守られてお屋敷に連れ帰られ、ブラッドと……その……。 「この子が帽子屋さんの何だっていいけどさ。 俺にとっては罪人なんだよね。 罪人は……牢屋行きだろう?」 騎士の赤い瞳が笑う。 「っ!!」 私も青ざめたが、エリオットたちの反応はもっとすごかった。 「ナノは帽子屋領の人間だ! 監獄になんか行かせねえっ!」 マフィアだから牢屋という言葉には敏感なんだろう。 それにしては反応が何だか過剰な気もするけど。 一斉にエースさんに銃口が向くが、 「おっと」 「え、エースさん!?」 エリオットたちに……エースさんは事もあろうに私を彼らに突き出すようにして……その、盾にした。 「てめえ! この卑怯者!!」 「そうですよ。騎士だから堂々と闘ったらどうなんですか!」 エリオットだけでなく私も抗議する。 するとエースさんは飄々と、 「えー? でも大人数で銃を持ってるんだぜ? 確実に身を守れる方法を取っただけだよ」 ――こ、この人は……。 そりゃエリオットたちは『ボスの女』たる私を撃てないはず。 だからといって、男が女を盾にするでしょうか、普通。 エースさんは私を盾にしたままじりじりと後じさる。 そしてふいに、背を向け、駆けだした。 「ナノ様!!」 「お嬢様!!」 「くそ……っ! おまえら、追え!!」 後ろからエリオットの指示が聞こえる。 「ははは。怖い怖い」 エースさんは笑うけど、のろまな私を連れて逃げ切れるわけがないと分かっているはずだ。 でも私を離そうとはしなかった。 2/5 続き→ トップへ 小説目次へ |