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■逃がさない

主人公:長編1夢主
時系列:24章と25章の間
年齢制限:R15

 走る。森を走っている。景色は流れるように後ろに過ぎ去り、私は
ただ足を――もう感覚のなくなった足をただ動かし、走る。
 少しでも前に進むため。

 あの男から――遠ざかるため。

 とはいえ想いだけで走れたら、全世界の乙女は苦労していない。
 身体のあちこちは、まだズキズキ痛んだ。
「わっ!!」
 木の根に足が引っかかった。
 HPをほとんど失った身体は、アッサリとバランスを崩し、倒れる。
 顔や手を木の枝がかすめ、痛い。
 ぶざまに転んだ。
 むわっとする草いきれや、朝露を吸った湿った地面の匂いが鼻についた。
 もちろんすぐ起き上がろうとした。だが起き上がれない。
 身体は呼吸を求めて激しく上下し、ただでさえ運動不足の身体は、もう限界だった。
「いたぞ! こちらにいらっしゃったぞ!!」
「ナノ様だ! 囲め!!」
 そんな……いちいち囲まれなくとも、逃げる元気なんて、もう……。
 騒々しく森をかきわける音がし、たちまち、私の周囲を構成員たちが囲んだ。
 帽子屋ファミリーの追っ手だ。

「ナノ様、お戻り下さい」
「お手を。さあ、ボスの元に参りましょう」
 私を起こそうと差し伸べられる手、手、手。
 けど今の私は、地面にうずくまり、震えている。
「い、嫌です。帰りたくありません……」
「ナノ様、ご無理を仰らないで下さい」
 ついに腕を引っ張られ、無理に起こされた。
「嫌っ!! 帰りたくない!!」
 もう一度逃げようと数歩進む。でもすぐよろめいた。
 もちろん進行方向には、とっくに構成員さんがスタンバっている。
 ここは帽子屋領奥の森の中。
 ほぼファミリーの私有地で、他領土どころか帽子屋領の民間人も
めったに来ない場所だ。
「お連れするぞ」
 構成員の人が私を連行する。
 顔無しとはいえ、小娘が逆らえる相手ではない。
「やだっ! 絶対に、やだ……!」
 無駄だと知りつつ、抵抗する。
 だが彼らは私の意向を無視することに決めたようだ。
 周囲を厳重に固めながら、私を引っ立てていく。
「嫌だっ! 許して! 行きたくない! 離してえぇっ!!」
 嗚咽に近い悲鳴が、森に響いた。


 私はナノ。違う世界から来た『余所者』だ。
 戸惑うことも多かったけど、少しずつこの世界にも慣れ、紅茶と珈琲の
腕を頼りに自活の道を探っていた。

 そして帽子屋ファミリーのボスに、全てを奪われた。


 …………


 森から戻った後、無理やりお風呂に入れられた。
 メイドさんが数人がかりで、ごしごしと私を洗った。
 そして泡を流され、乾かされ、軽く香水をかけられ、服を着せられる。
 ブラウスとスカート。女の子らしいデザインの可愛いものだ。
 ……下着はかなりキワどかったが。

 浴室から出されるとすぐ、使用人が私を連れに来た。
 もう逃げる気力も無く、私はついていく。
 ブラッドの部屋はすぐだった。
 使用人が部屋の扉をノックする。
「ボス、ナノ様をお連れしました」
 私は真っ青な顔になり、うつむいている。

「入れろ」

 すると使用人は扉を少し開け、私を丁重に、だが抵抗を許さぬ強さで
扉の向こうに押し出す。
 足を踏ん張って拒否しようとしたが、無駄だった。
 そして私の身体が、やっと室内に入ると、真後ろで扉が閉まる。
 同時に、ガチャッと錠の下りる重い音。
 ブラッドが妙な力で鍵をかけたんだろう。
 しばらくは誰も出入り禁止という意思表示か。
 扉の前からは、使用人が足早に立ち去る気配がした。

 そして私は取り残される。

 私は扉を見つめ、立ち尽くしていた。

 そしてソファから誰かが立ち上がる音。

 ドクン、と心臓が恐怖で跳ね上がる。

 このまま消えられたらいいのに。
 でも不思議の国は、非情な現実を維持したままだった。
「…………」
 足音が近づくにつれ、全身から冷たい汗がふき出た。
 身体が勝手にガクガク震える。
 なのに、私はただ待つしか出来なかった。

「ナノ」
「――っ!!」

 真後ろで声。
「こちらを向きなさい」
「あ……あ……」
 バカみたいに上ずった声しか出せず、動けもしない。

「ナノっ!」

 ドンと、いう大きな音。もちろん、私は殴られていない。
 彼が両手を扉についた。それだけ。
 それだけなのに、私は頭が真っ白になっている。
「…………」
 私はバカみたいに口をパクパクさせるだけ。
 ブラッドの息づかいを髪に感じる。
 まるで肉食獣に牙を突き立てられた、情けない小動物だ。

「なぜ逃げた?」

「あ……え……」
「答えろ」
 見えるものも聞こえるものも全てが遠い。
「さ、さ、散歩を、し、ししし、しよう、かなって……」
 蚊の鳴くような小さな小さな声。
 私はできるだけ身を縮め、目をギュッと閉じた。
 ブラッドは、私の耳朶につきそうなほど口を近づけた。
「私の許可無しに屋敷を出ることは許さない。そう言っただろう?
 それとも、出ずにいられない理由でもあったのかな?」
 私は公平な飼い主だ、それなりの理由があれば許そう、と声は続ける。
「ご……ごめんな……さい……」
「どうした。こんなに震えて。風邪でも引いたのか? 可哀想に」

 ブラッドの手が私の前に回り、首元のボタンを一つ外す。

 素肌に感じる外気に、私はますます身を縮めた。
 だがすぐに別の感覚に背筋を反らした。
 ブラッドの手が、その隙間から入ってきたからだ。
「それとも、理由は無かったと? 単に私が嫌になったのか?」
「い……い……」
 媚びを売って『いいえ』と言ってしまいたい。
 でもそれは間違いなく嘘だ。 
 ブラッドはそこをついてくる。見逃しはしない。
「っ!」
 くすぐったい。けれど怖い感触。
 彼の手が肌着の中に滑り込んできた。
「ああ、そうか。以前の行為が気に入らなかったか? 
 君も慣れてきたと、愚かしくも勘違いしていたが」
 ブラッドの手袋が、胸の先をつまみ、ゆっくりといじり出す。
 慣れていない。全然慣れていない。
 顔から火が出るほど恥ずかしい。
「や……やめ……」
 身体を丸めるようにし、どうにか逃れようとした。
 だがブラッドのもう一方の手が、ブラウスのボタンを一つ一つ外し出す。
「止めて、下さい……」
 前をはだけられると胸があらわになる。
「やめ……て……」
 ブラッドは私の前をたくし上げる。
 大きな手に弄ばれる胸があらわになった。
「ん……ん……っ……」
 指先で弄られる先端は色づき、反応しているのが一目瞭然だ。
「止めろと言いながら君は悦ぶ。逃げないと誓いながら逃げる。
 本当に分からない子だ」
 スカートの裾をたくし上げらた。
 ブラッドの手がわざとらしいくらい、ゆっくりと太腿をつたう。
「だって……だって……」
 下着の中に手が入り、私は耐えきれず手で顔を覆う。
「目を閉じた方が、余計に『感じる』んじゃ無いか? 君は淫乱だからな」
 ブラッドの手が何度も谷間を撫でる。
 だが恐怖もあって、まだ反応しているとは言いがたい。
「う……っ……」
 指が無理やり谷間にねじこまれる。
 羞恥と強引なことをされた戸惑いで、私はさらに背を丸める。
「それとも××時間帯前のアレか? そんなに嫌だったか? 
 まあ仕事と、君を愛することを並行させようとするなど、私も愚かだった。
 どうか許してほしい」
「…………」
 どこまで本気で言ってるんだか。

 ……私はブラッドに囚われ、無理やりに初めてを経験させられた。
 もちろん、一回で終わるわけはなく、その後何度も×された。
 私が嫌がっていようと準備が出来ていなかろうと、彼には関係ない。
 ただ恥ずかしくて、抵抗出来ない自分を直視するのが、苦痛だった。
 そしてやりたい放題なのをいいことに、時には屈辱的な奉仕もさせられた。

 ××時間帯前に、室内で仕事をする彼への奉仕を強要されたのだ。
 男の人の××を咥えることなんて、嫌でたまらない。
 しかも仕事をする彼を慰める、という理由ではない。
 仕事の合間に私を『調教』するのが目的だったようだ。
 彼は私に強引に咥えさせ、口の使い方を教えた。
 口頭で指示を出し、執務机で仕事をしていた。
 書類を走るペンの音が乱れることは、決して無かった。
 
 やっと解放されたとき、口内の違和感と悲しさで私は泣いていた。
 けどブラッドは『上手くはないな』とだけ言った。
 もう一度やるよう命令されたとき、目の前が真っ暗になったものだ。
 二度目なので時間もかかる。ブラッドの声には欠片も乱れはなく、
淡々としていた。書類仕事の音と私の嗚咽だけが、響いていたものだ。

「あのときは悪かったな、お嬢さん」
 そう言われても、嫌な思い出を蒸し返された気持ち悪さしかない。
 嫌なことは思い出したくない。
 でも詫びつつも、彼が一方的に触れる行為は止まらない。
「ブラッド……や……」
 手で身体を少しでも隠そうとする。
 だが、そうするほど、身体を露出させられる。
 肌着をとられ、スカートのホックがはずされ、足下に落ちる。
 後はもう、意味を為さなくなった下着が引っかかっている程度。
 彼はというと、未だに手袋さえ取っていない。
 この先の行為が怖くて仕方ない。
「お、おねがいです、ゆるして、ください……」
「逃げたペットを甘やかしていては、逃げ癖がついてしまうからな。
 最初のうちにしつけることが肝心だ。そう思わないか?」
 下着が太腿まで下ろされる。
 全身をあらわにさせられ、嗚咽が漏れた。

「私から逃げようなど、無駄なことを。愚かなお嬢さんだ」

 彼の舌が耳朶を舐めるのを感じる。
「それとも、あのお仕置きが嫌だったか? 苦痛を与えたことは認めよう」
 声が遠くから響く。別の記憶の扉が、ゆっくりと開いていく。

 ブラッドの『物』にされて××時間帯。
 私は、たいていは無気力でされるがままだった。
 だが時折、思い出したように抵抗したものだ。
 ちょうど十数時間帯前が、そんなときだった。
 行為を強く拒絶し、彼から離れようとした。

 ……罰は迅速だった。
 速やかに縄で縛られ、ベッドで彼を受け入れさせられた。
 お仕置きの意味合いの強い行為だった。
 行為は痛みを伴い、負担がかかる体位もさせられた。
 今まで避けてくれたことも、された。
 私はずっとずっと泣き叫んで、許しを請うていた。
 だが、かなえられることはなかった。
 いや私が泣けば泣くほど、ブラッドは熱くなっているようだった。
 苦痛を楽しまれている。
 この人は異常だ。狂っている。
 ブラッドの全てが恐ろしかった。

 それで目が覚めた後、どうにか屋敷の外に逃げ出したのだ。

 …………

 だが今度はブラッドは、謝らなかった。
「君は自分を被害者のように思っているようだな。
 だが私にしてみれば、あれほど露骨な意思表示は無い。
 君は泣きながら雫をこぼしていたものだ。そう。今のように……」
 谷間をかき回され、ひっと息が上がる。
「ち、違う……」
「ナノ。自分で触りなさい。そうすればよく分かる」
「……っ!……」
 手首をつかまれ、無理やりに股間に導かれる。
 押しつけられたそこは、さっきと違い、確かに生温かく濡れていた。
 彼の手に強制されるまま、私は自分の××に指を沈める。
「はぁ……あ……」
 あ、熱い……。自分の指が触れるたび、下半身が熱く、爛れていく。
「鏡の前に行くか? そこではしたない君をよく見せてくれ」
「い、いや、嫌です……っ!……」
 するとブラッドは私を強く抱きしめてくる。息も出来ないくらい強く。
「もう欲しくてたまらないだろう?」
 指が、自分の指が、深くをかき回す。
「違います、やめ、止めて……っ……!」
「もう私は君の手を離しているが?」
「――っ!!」
 ハッとした。
 いつの間にか、ブラッドの手は離れていた。
 私は自分から自分の××に触れていたのだ。
 慌てて手を離すと、いやらしい糸が光る。
 羞恥と自己嫌悪に、指を下ろそうとすると、ブラッドにグイッとつかまれる。
「な……何を……」
「舐めろ」
 一瞬、頭が真っ白になる。
 だけど、従うしか無い。
「ん……」
 ほんの少しだけ唇を開くと、指が割って入る。
 どれだけ噛んでやりたかったか分からない。
 でも、逆らうことが出来ない。
「ゆっくりと、よく味わいなさい」
 苦しさで涙がこぼれた。
「良い子だ」
 ペットでも褒めるような声。至極当然の結果だ、とでも言いたげな。
「――っ!!」
 そしてブラッドの指が、もう一度谷間に沈む。
 今度は容赦なく、そして激しくかき回す。
「いや、あっあ……ダメ……あ……」
 雫がこぼれ、脚を伝っていく。
 もう立っていられず、膝を折るとブラッドが軽々と支えた。
「……っ……!…………!!」
 もう声も出ず、ただ与えられる快楽に全神経を集中させた。
 そして後ろに、彼の熱を感じた。熱く猛って、今にも私を――。
「――――っ!!」
「……達したか? 意外に早いな」
 完全に力の抜けた私を支え、ブラッドは嘲笑した。
 最も苦手な相手に指だけでイカされた。屈辱と敗北感で涙がにじんだ。
 部屋に嗚咽が再び響く。
「まだこれからだぞ、お嬢さん。
 さて、今宵はどんな声で楽しませてくれるのかな」
 いっそ楽しげに笑い、私をベッドに引きずっていく。
 私は強引に歩かせられながら、考える。

 どうやってこの男から逃げればいいのだろう。
 どうすれば私という玩具に飽きてくれるのだろう。

「ああ。安心なさい。私は身寄りのない君を路上に放り出すような、冷酷な
男では無い。飽きたら――君が苦しまないよう、一瞬で楽にさせてやる」
 
 心が切り裂かれる。この男の執着と、冷酷な時計の針に。
「ナノ……」
 ブラッドは愛する恋人にするような、優しいキスを私の頬にした。
 そして流れる涙を舌ですくい、せせら笑う。

「せいぜい飼い主を楽しませることだ。飽きられないようにな」

「はい……」

 うなずく以外に、何が出来ただろう。

 そして私をベッドに突き飛ばし、支配者がのしかかる。

「逃がさない……逃げるのなら、壊して人形にしてでも、側に置く」

 独り言のように、小さく呟くのが聞こえた。
 幻聴かもしれない。きっとそうだ。そうであってほしい。

 そして私は彼の手に導かれるまま、快楽の闇に落ちていった。

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