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■ダイヤの城のお茶会4

後から聞いた話。
帽子屋ファミリーには双子の門番がいる。
彼らは、私ナノを捕らえたら、かなりの額のボーナスが出ると約束された。
それで測量会のとき、こっそり私を狙っていた。
だがしかし、墓守領の連中が完全に私をガードし、そのうち役持ちの
ユリウスまで加わって、手の出しようがなくなった。
そこで一度引き、機会をうかがっていたらしい。
そしてエースに連れられて、ノコノコと巣穴から出て来た私を発見したと……。

…………

ダイヤの城の客室に、どっすんばったんと騒ぐ声が響く。
「放して下さい!私は墓守領に帰るんです!!」
「落ちついて下さい、お嬢さま。お茶会には服装がございます」
「おしたくが遅れます。お静かに」
ダイヤのお城のメイドさんたち。
美貌もさることながら、腕力も相当なもので、騒ぐ私を軽々と押さえつけ、
メイクやら着付けやらを着々と施していく。私は半分、涙目で、
「ブラッドに会いたくないんですよ。それにいつもの服でいいですから!」
「お受けいたしかねます。お転びになり、お召し物が汚れております」
「少々お傷がございます。我々がちゃんと隠しますのでご安心を」
「お茶会はあなた様の到着次第、開始されます。急ぎましょう、ナノ様」
つまり、こちらの事情は知ったこっちゃねえ。
服も身体も汚れておる、とっとと着替えろと。しくしく。
「でも、嫌なものは嫌ですー」
元が悪いのを飾り立てたって、大して変わりはしませんって。
ガックリとうなだれていると、ファンシーな……コホン、黒ウサギの
宰相シドニー=ブラックが現れた。
「いかがでしょう、ブラック卿」
メイドさんの一人が、おずおずと上司にうかがいを立てる。
黒ウサギの宰相閣下は私を上から下まで眺め、鷹揚にうなずいた。
「いいでしょう。これなら陛下も満足されるはずです」
メイドさんたちがホッと息を吐くのが聞こえた。シドニーは私に、
「では、これからお茶会に参加していただきます。ついてきなさい」
「はあ」
参加しないことには解放されそうにない。私はメイドさんたちに軽く
礼を言い、渋々シドニーの後について部屋を出た。
「こちらです。ドレスにつまずいて汚さないように」
「……はあ」
シドニーは先に立ち、歩いて行く。
「シドニーさん。墓守領の人たちに、お茶会が終わったら迎えに来て
もらえるよう、連絡してもらえますか?」
すると一瞬、間がありシドニーは、
「分かりました」
今の『間』は何なんだろう。まあいいや。
「ところで君」
「はい?」
シドニーはチラッと私を見、
「君は元の世界で上流階級に属していましたか?」
「いえそんなこと、あるわけないでしょう」
「そうですか」
そして沈黙。何なんですか。庶民の私に、上流階級の作法を求められても!
「それと、その腰に下げている包みは何なんですか?」
「玉露ですが」
「部屋に置いてきてほし――」
「お断りします」
「お茶会にふさわしくな――」
「お断りします」
「だいたい何だって、そんなものを――」
「お断りします」
「…………」
玉露。いつの間にか持っていたけど、私の物。大切な物だ。
ドレスアップするとき、メイドさんに置いていくよう言われた。
けど、これだけは頑として譲らず、メイドさんたちも諦めてくれたのだ。
「まあ、いいか。アクセサリーとしてごまかせば……」
シドニーは、かなり無理やりに、自分に言い聞かせるようにうなる。
それきり、私たちは会話をすることもなく、お城の回廊を歩いて行った。
――ブラッドに会う。
それだけで胃がキリキリ痛みそうだ。
帰るまでにユリウスが来てくれるといいのだけど。
やがて、とりわけ大きな扉の前に来た。シドニーは振り返り、
「この先に女王陛下と帽子屋がいます。準備は出来ていますね?」
「…………」
誘拐同然に連れてこられ、出来ているわけがないでしょうが。
無言がご不満だったのか、シドニーはチッと舌打ち。
そして扉に向き直るとノックし、扉の向こうに何か話しかける。
答えがあったのか、私を振り向き、
「それでは、開けますよ」
冷血宰相が、扉がゆっくりと開いていく。
私は緊張で、心臓をわしづかみにされた気分だった。

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