続き→ トップへ 小説目次へ ■ブラッドの新しい女性・後 しかし、少々不満でもある。私はうなる。 「でも聞く限り、華がないですね。 何というか、もう一アクセント欲しいような」 性格の善し悪しはあれ、ブラッドの部屋に出入りする女性には抗いがたい魅力があった。 芸能人のオーラに似ているかもしれない。 あれがマフィアのボスの情婦、と言われて『ああ、いかにも』とうなずけるような。 でも猫っぽくて庭で茶を飲んでいるというと『町で評判の看板娘』レベルしか連想出来ない。 そういう人がマフィアのボスの情婦と言われても。 特ダネを追う記者としては、記事にしづらくて困る。 「そうでもないさ。彼女はすでにたくさんの者を魅了している」 「そうなんですか? きっと可愛い猫さんなんでしょうね。早く会いたいですね」 するとブラッドは、 「会えるさ。今すぐにでも」 「え?」 私はぎくっとする。 「も、もしかして、ブラッドの新しい恋人さんは今この部屋にいるんですか!?」 「ああ、そうとも」 私は無理やりブラッドの腕から離れて立ち上がると、光の速さでベッドを見る。 良かった、誰もいない。いたらドン引きだ。 「ふふ、今はいないが、もうすぐ彼女はあそこに横たわることになる」 「…………」 言わんとすることはさすがに理解出来る。 かなり露骨なのろけか遠回しのセクハラか。 いずれにせよ馬の骨状態で急に気まずくなる。 それに女の人がいるというのに、ベラベラと余計なことを言い過ぎた。 やはり沈黙は金。紅茶をもっとご馳走になりたかったけど早く帰ろう。 しかし、ブラッドは慌てる私の後ろから……私を抱きしめた。 動けない。 大きな腕が私を完璧に封じる。 「ぶ、ブラッド! 新しい女の人が部屋にいるんでしょう!?」 「ああ、いるとも。私のすぐそばに」 「離して、離してください……あの、止めて……ぁ……」 変な声が出てしまう。 首筋に顔をうずめられてしまった。 「セクハラ! セクハラですよ! 訴えますよ!」 必死に騒いだ。でも、 「どこに訴えるというんだ。この世界に警察などいないぞ」 「え……ええと、それじゃあここで一番えらい人……」 「私だな。ここでは私が法だ。誰も私には逆らわない。 もちろん、この屋敷に属する君も逆らうことは出来ない」 そして、私の耳たぶを、かんだ。 「っ!!」 もう真っ赤になって声も出ない。冗談ではすまない。 「ブラッドの新しい彼女さんが見ているんでしょう。 彼女にしたばかりなのに、さっさとフラれちゃいますよ」 「そうだな……まず彼女を君に紹介しよう」 そして、腰に手を回し、くるっとブラッドの方を向かされる。 「私の目を見るんだ」 「え?」 言われてブラッドの瞳を見る。 いつも気だるそうなダークグリーンの瞳。 その中にうつるのは、平々凡々とした小娘の自分。 「見えるか? 彼女が私の新しい女だ」 「は?」 本気でよく分からず問い返すと、ブラッドは私の腰を引き、身体が密着するくらい抱き寄せた。 「やれやれ、まだ気づかないのか」 そして耳元で低く言った。 「ナノ、君だ」 4/4 続き→ トップへ 小説目次へ |