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■涙

※R18

紅茶が不味かった。
それだけの理由で『罰』と称して押し倒され、言いようにされている。

「いや……止めて……」
泣きそうだった。いや、泣いている。
涙があふれてあふれて、止まらない。
私を押さえつけるブラッドは、私の涙を指先で拭き、優しい声で言う。
「そう泣かないでくれ、ナノ。
私が悪いことをしていると錯覚してしまいそうだ」
――いえ錯覚じゃないです。してますよね?悪いコトしてますよね?
ツッコミたいのですが、状況が許さないというか何というか。
「ぁ……ん……っ」
下着はすでに原形をとどめていない。
破れた箇所から入り込んだ指が敏感な箇所をくすぐり、身体が小さく跳ねる。
「困ったことだ。まさかここまで反応しやすい身体だったとは」
焦らすように指を動かしながら、ブラッドが笑う。
その箇所はすでに十分に潤い、指が動くたびに愛液があふれてくる。
「そんな……やだ……ん……っ……」
抑えようとしても漏れてしまう甘い声。
そして『罰』という行為にそぐわない、甘く優しいキス。
目を開けると、射貫くように自分を見据える碧の瞳があった。
「…………」
またじわっと涙がこぼれる。
「泣かないでくれ、お嬢さん」
目がしらにキスをされた。
そうは言われても、悲しくなるんだから仕方ない。

――悲しい……何が?

ふと自分で思い、慌てて打ち消す。
――当然です!好きでもない人に×××されようとしてるんだし!
「んっ……!」
抱きしめられる。強く。
「忘れなさい」
耳元でささやかれた。
「君は私だけを見て、私に従っていればいい」
どこかで聞いたような。そんな違和感のある誘惑。
――それに……そんな変な関係になるつもりは……。
「ゃっ……」
けれど深い場所に指を沈められ、口から出たのは、甘えた声。
「ずいぶんとご無沙汰だったようだな。
この国ではまだ誰も誘っていないのか?」
「そんなの……ひっ……あ、当たり、前、です……!」
「君はまだ余所者だ。その気になれば、いくらでも男を落とせるだろうに」
「わ、私はそんな、変態じゃ……」
指を動かされるたびに身体を震わせながら、必死で首を振った。
ブラッドは起き上がると、私の両足に手をかけ、大きく開かせる。
「……っ!」
大事な場所を他人の目に晒された羞恥心と……どこか恍惚とした思い。
ブラッドの前で××させられた、あの夜以来の興奮だ。
あのとき欲しくて仕方なかったものが与えられる。
その浅ましい悦びが内を支配する。
「……っ……あ、ああ……!」
指を増やされ、快楽に腰がはねる。
深い場所に指が出し入れされるたびに、あふれた愛液が音を立てた。
ブラッドは指を出すと、光る糸を引く様を見、呆れたように、
「君は本当にいやらしい子のようだな。
以前も一人の男で我慢出来ていたのか?誰かを激怒させていたことは?」
「あ、あ、あるわけ、ないですよ!」
浮気を責めるような言われ方をされ、真っ赤になる。
「……ん……っ」
濡れた大きな手が私の胸を包む。指先で反応する場所を弄ばれ、顔が
赤くなる。ブラッドは私の頬を撫で、
「さて、こんな顔をする君を前に、どれだけの男が自制出来ていただろうな」
そう言って軽くかがんでキスをすると、また起き上がる。
「……っ……」
ブラッドが衣服の前を緩めだすのを見、また下半身にジワリといやらしい
愛液があふれるのが分かった。
足をだらしなく開き、陶然とブラッドを見る私に、
「私が君を弄んでいると思うか?だが事実は逆だよ、お嬢さん」
と、謎めいた言葉を吐き、私の足を抱えた。


独房に虜囚の声が響く。
「あっ、あ、ああ……だめ、やぁ……」
虜囚の雌は、切ない声でひたすらに求めている。
「やれやれ。本当に罰ではなくご褒美になってしまったな」
ブラッドは苦笑しながらも、何度も何度も激しく突き上げる。
そのたびに理性が身体の外にはじけ飛び、何も分からなくなっていく。
「んっ……あん……ひっ……あ、ああ……!」
乱れた声はもう抑えようがなく、気がつけば、より快楽が深くなるように
自らも腰をくねらせている。
「あまり可愛いことをするな。溺れそうになる……」
激しく責めるブラッドの額から、一滴だけ汗がこぼれた。
何も分からない。この人が欲しい。
「あっ、あっ、ん……あ……っ」
つながった箇所からいやらしい音がし、それさえも快感を高める道具になる。
――気持ちいい、もっと……っ……。
もうどうでもいい。目の前の人以外、何もいらない!
深くを貫かれるたびに、私は声を上げて泣いた。
「……っ……ナノ……っ……」
ブラッドが小さく私の名を呼んだ。
「ブラッド……っ……」
目が合う。私たちは抱きしめあい、舌を絡め、激しいキスをした。
「――あっ……ああ!!」
そして切ない叫び声を上げ、私の中の何かが真っ白に弾けた。
「……っ……!」
一呼吸遅れブラッドが小さく息を吐く。
同時に、内に生温かい何かが、激しく叩きつけられる。
「ああ……っ……!」
全てを受け止め、私は歓喜に身体を震わせた。
「はあ、はあ……」
そして絶頂の余韻の中で、ぼんやりと考える。
――あれ?ここ、どこだったっけ……私を抱いてる人は……。
「ナノ……」
優しく抱きしめ、キスをし、髪を撫でてくる。
私は半覚醒の頭で、答えを導き、言った。

「ブラッド、また私をさらったんですか?」

瞬間、私を撫でていた手が止まる。
私は気だるくブラッドを見上げ、笑った。
「満足したのなら、お店に返してくださいよ、ご主人様。
ご不満ならお店の割引券を差し上げますから」
いつものような余裕の笑みが返ってくると思っていた。
気の利いたジョークか皮肉でもつけ加えて。
「…………」
けど、ブラッドはバッと起き上がった。
手早く衣服を整え、大股で独房の扉に向かう。
――あれ……?
だんだん頭が冷めてきた私は、ブラッドに抱かれたのだと思い出す。
そして疑問に思う。
――お店?割引券?何のことですか。
ああ、でも墓守領に店とか、いいかも。
そして独房の扉を開ける音がした。
私は汚された身体のまま、扉の外から入り込む風を寒いと感じた。
ブラッドに目をやると、底冷えのする瞳で私を見ていた。
「……っ!」
憎悪、だった。その瞳にあったのは。
私を撃ちたくて仕方がないという。
でもブラッドは何もせず冷淡に、
「次は他の者にさせる」
扉がしまり、鍵がかけられる音がする。
私はブラッドの言葉の意味を考えないようにした。
――服、どうしますかね。
熱も冷めた身体は、寒さを訴えかけている。
私は半裸の身体にお布団をかけ、その中にうずくまった。
――……?
目に違和感を抱き、指を当てる。
水。
私は泣いているみたいだった。
「う……うう……」
独房に嗚咽が響く。途切れることなく。

――紅茶、美味しい紅茶を淹れないと……。
そんなことは出来ないと、他ならない自分が一番よく知っていた。

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