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■墓守領のテント野郎・中

緑色のテントの中で、少年と余所者の少女が取っ組み合っていた。
「だから、テントを見せてやるって言ってるだろ!」
「私は忙しいんですよ!自慢するなら別の方にお願いします!」

居住スペースのエントランスにエースのテントを見つけ。
最初は無視して行こうと思った。けど、テントを自慢したいらしいエースに手首を
つかまれ、無理やり中に、引きずり込まれたのだ。

そして。
「はあ。なかなか床材がしっかりしてますね」
「当たり前だろ!いい素材のやつを頼んだんだ!」
……結局、招かれてしまった。しかし新品だけあって、確かにいいテントだ。
エースはそのテントの床に寝そべり、渋々拝聴する私に、元気に自慢してくる。
「すごいだろ!苦労してやっと手に入れたんだぜ!」
「ふむふむ」
――どうせユリウスさんにねだって、買ってもらったんでしょうが。
いえ、入手経路はよく知りませんが。聞く気も起こらないし。
「形は単純でも設営にはコツがいるんだ。支柱のポールをちゃんと立てるには――」
「ほうほう」
「あと旅の道具とか、もっと欲しいよな。市場に保存食でも買いに――」
「うんうん」
適当に聞き流しながら、外の様子をうかがうが、人が来る気配はない。
「…………」
「エース?」
エースが急に黙ったので、顔を見る。すると、大きな赤い瞳が疑わしげに、
「聞いてる?余所者君」
「聞いてます、聞いてます。それで?」
正座して、ニコニコとうなずく。すると、どうにか納得したらしい。
「ああ、そう。じゃあ続きを話すけどさ。俺がそろえたい道具は――」
彼は、本で読んだんだかユリウスさんから教わったんだか知らない知識を、せっせと教えてくれる。
「なるほどなるほど」
――もしかしてこのテント、ユリウスさんが一緒に選んだんですかね?
もしそうなら、さぞ微笑ましい光景だっただろう。
そして相変わらず、エントランスには誰も来ない。
なので、私もエースの横にごろんと寝そべる。
そうするとエースと目線が同じになった。
「……!」
気のせいだろうか。彼の目が、急に嬉しそうに輝いた気がした。
「そ、それで、焚き火を上手く起こすコツは――」
ますます張り切って話してくる。
「はいはい」
適当に答えつつ、別のことを考える。
――何とか、ユリウスさんとお話出来ないですかね……。
なぜなのかは自分でも判然としない。妙に気になるのだ。
とはいえ、私は初対面で、あちらにはお仕事がある。
会いたいからといって、気軽に会いに行ける相手ではない。
――あと……眠いかも……。
仕事の疲れもあり、次第にうとうとしてくる。
エースの声が次第に遠く……遠く……。

「『墓守領にいつもと違う動きがある』と、噂になったそうです。
その話が、そのまま向こうに流れたようで」
「そうか。ここにいるコトがバレたかもしれないな。いや、バレているだろうな」
夢に入りかけかな。遠くでジェリコさんの声が聞こえたような……。

「だが、どこから情報が漏れた?箝口(かんこう)令は全員にかけたはずだが」
またジェリコさんの声だ。でも変だな。いつもと違って、ちょっと怖い気がする。
「はい。流通ルートに探りを入れられたようです。墓守領からの発注量が急激に
増え、不自然だったと。発注をさせないようにするべきでした……」
これは構成員さんの声だ。ここの構成員さんたちは、皆優しい。
でも今は、声がちょっと緊張している。
「無茶言うなよ。全員が珈琲派ってわけじゃねえ。上得意客の接待に出す場合だって
ある。いつまでも在庫ゼロというわけには、行かないだろう。
だが、せめて分散発注させるべきだったか……」
またジェリコさんの声。珈琲って、何の話だろう。
まあ、珈琲には興味ないから、私には関係ない話ですね。

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