続き→ トップへ 小説目次へ ■療養inエリオットの部屋・前 眠りから目覚めた私はベッドからムクッと起き上がり、部屋の主に話しかける。 「エリオット、ご飯はまだですか?」 ソファに座って書類整理(!)をしていたエリオットは、呆れたように私を見る。 「あんた、さっき食べたばっかりだろう。どれだけ食ってるんだよ」 「治り際はお腹がすくものですよ」 「それですぐ寝て……太るぞ」 「うっ!」 そう言われると乙女として反論のしようがなく、私はベッドに横になる。 そのとき 「――っ!」 うっかり傷をこすってしまい、わずかに声が出る。 「おいっ! ナノ!!」 たちまちエリオットがソファから立ち上がり、こちらに駆け寄ってきた。 「大丈夫です! 大丈夫ですよ!」 必死に叫ぶが納得させられなかったようだ。 「見せてみろ、傷が開いていたら――」 そう言われて布団を剥がれ、大きな手に腕を取られる。 「…………」 エリオットは私の包帯を確認し、ホッとした顔で、 「大丈夫だな。よかった。じゃあちゃんと寝てろよ」 「はいです」 優しく横たえられ、ふかふかの布団をかけられる。 私は目を閉じた。でも眠れない。 エリオットにつかまれた場所にまだ彼の体温が残っているようだった。 そのエリオットが書類仕事に戻り、書き物をする音が聞こえる。 部屋は昼の光が差し込み、ウサギさんの走らせるペンの音以外は聞こえない。 私は眠れないまま私は目を閉じる。 腕の傷がまた少し痛んだ。 私はずっとエリオットの部屋で看病されている。 そして思い出す。 ……ハートの城から帰ってきたとき、大騒ぎになってた。 それはもう、もんのすごい大騒ぎに。 末端の使用人さんからエリオット、ブラッドまでが武器を持ち、弾薬や爆薬を山ほど用意して門の前に集まっていたところだった。 ちょうど出発するところだったようで、どこに戦争に行くのかという出で立ちだった。 『お仕事ですか? 頑張ってくださいねー』 私はてくてくと彼らの前に姿を見せ、仮面を外して呑気に笑いかけ―― 『ナノっ!! この馬鹿っ!』 エリオットが叫んだ。 『一人でハートの城に殴り込む奴があるか、馬鹿野郎っ!!』 屋敷中に響くんじゃないかという声で、思いっきり、思いっきり怒鳴られた。 なら一人じゃなかったら良かったんだろうか。 なんていう茶々を入れるのがためらわれるほどエリオットは肩を震わせ、よく見ると真っ青で今にも泣き出しそう。 出来るものなら私を殴ってやりたいという顔だった。 ブラッドも表情を変えないものの、わずかに肩の力を抜き、 『これから総出で君の救出に行こうとしていた。無事――ではないようだがな』 私のローブに広がる染みを見て、眉をひそめた。 患部を縛ったはものの、片腕でやったので、どうも締め方がゆるく、屋敷にたどりつくまでに延々と流れ続けていた。 エリオットもあわてて、 『ナノ!! 今治療してやるからな!』 叫んだかと思うと、すぐに私のローブを取って放り、両腕で私を抱えた。 そして一目散に屋敷に駆け出す。 これは乙女憧れのお姫様抱っこですか、とか、腕が痛くありませんか?とか、聞くもはばかられるような真剣な顔だった。 私は勝手にも、腕に抱えた玉露と戦利品のダージリンの缶に血がつかないか、それだけが心配だった。 1/6 続き→ トップへ 小説目次へ |