続き→ トップへ 小説目次へ ■三月ウサギ・上 「な、何で……」 ブラッドの部屋で、ドリルの解答ページを見ながら呆然とする。 全問不正解。 全部間違い。 「……何か頭の悪さが加速してませんか?」 マフィアのボスにとらわれ幾星霜。い、いえ、さすがにそこまでは行かないけど。 まあ、それで、パーティーまでちょっと時間があるので、ブラッドの部屋でドリルを解いてたのだけど。 「紅茶が淹れられず頭も悪くなり続けって……」 もう踏んだり蹴ったり。問題文を見ることさえ怖い。 もはや日常に支障が出るレベルの計算さえ、解けなくなっている。 困り果てて頭を抱えていると、扉が勢い良く開いた。 「ナノ!迎えに来たぜ!」 意気揚々と入ってきたのはエリオットだった。 仮装はまだしていないようで、会議のときのスーツ姿のままだった。 「うう。放っといてください。パーティーなんか出ないで問題解きますから……」 「問題?」 エリオットは×印の乱舞するドリルを見ると、なぜか理解したようだった。 「ああ、今はバランスがちょっと悪いだけだ。そのうち釣り合いが……」 「バランス?」 説明を求めてエリオットを見ると、彼も説明しづらいと思ったのか首を傾げつつ、 「えーと、とにかく説明が面倒くせえ! ちょっとしたら、前くらいには計算能力が戻ってくるから!」 「……ねえ、それって脱獄と関係があるんですか?」 するとエリオットが笑う。 「あんたは何もなくてもすごいって。いつもニコニコしてて、あんたがそばにいると 皆、安心する。なのにマフィアの中枢に入って、堂々とボスの女をやれるんだから」 何だか意味深だけど、これ以上聞いても無駄だという気はした。 そして、まだ時間があるのかエリオットは私の隣に座る。そしていつもより真面目な顔で、 「ナノ、あんたは紅茶や他のことで頭がいっぱいみたいだな。 ブラッドの女は、そこまで嫌か?」 「ボスの女なんか嫌ですよ。それならエリオットが恋人の方がずっといいです」 お耳をちょいちょいと撫でるとエリオットはくすぐったそうにして、 「腹心を誘惑するもんじゃないぜ。組織の土台が緩んじまう」 エリオットはそれでも笑いながら、 「あんたはブラッドのそばにいろよ。ブラッドはあんたに惚れてるし、大切にして くれてるだろう?あんなに一途なのに、浮気なんかしたらブラッドが可哀相だぜ」 よりによってエリオットにお説教された。まあ、言葉の後半は完全に無視して、 「大切にですか?」 首を傾げざるを得ない。けどエリオットは強くうなずく。 「大切も大切。もうベタ惚れだぜ。念願叶って、あんたが屋敷に来てくれたから、 今も有頂天だしさ。あんな上機嫌なボスは見たことがないって外部の奴らも言ってるくらいだ」 「有頂天……上機嫌……」 誰が?どこが? 浮気や紅茶のことをネチネチつつかれた記憶しかない。私がそう言うと、 「あんたがつれないから、ちょっと意地悪して気を引きたかっただけだって。 そんなにすねるなよ」 笑いながら背中を叩いてくる。 こちとら必死でマフィアのボスとやりあっているけど、腹心殿の目には痴話喧嘩と しか映らないようだ……というかあなたのボスは思春期の男の子か何かですか。 1/7 続き→ トップへ 小説目次へ |