続き→ トップへ 小説目次へ ■ブラッドとの勝負・後 ブラッドは一瞬間を置く。 次に優雅な仕草でソーサーの下から手品のように鮮やかな手つきで紙片を取り出した。 それを私が見えるような位置に置く。 私は試験の解答を見るような強ばった顔で紙片に目を走らせた。 「Darjeeling,Second Flush,FOP」 ――ダージリン、セカンドフラッシュ、フラワリーオレンジペコー 「……っ!」 私は緊張が解け、はあっと息を吐いてソファにもたれた。 パチパチパチと大きな音がする。 ブラッドが、手袋まで取って私に拍手をしてくれていた。 「さすがだよ、ナノ。 短い間でよくここまで紅茶が分かるようになったものだ」 けれど私はブラッドを睨みつける。 「マスカットの香りがした時点でダージリンと分かったはずでした」 自分で言いながら、さらに悔しくなる。 ほうじ茶と玄米茶の違いが分からなかったようなものだ。 「それにオータムナルの可能性もあったのに、勘でセカンドと答えたんです。 半分当てずっぽうですよ」 「勘、ね。私はそうは思わないな。セカンドフラッシュはマスカットフレーバーが最も栄える。 君はわずかな間に蓄積された知識と経験からセカンドという判断を一瞬で導き出した。 もっと自分を誇りたまえ。私は君に最大の称賛を送りたい」 「……どうも」 大仰な称賛を今ひとつ受け入れられず、改めてダージリンを飲む。 「それで、外出許可はいただけるんですね」 するとブラッドは上機嫌だった笑顔をわずかに曇らせ、渋々言った。 「君が勝ったのでは仕方ないな。自由に出入りしたまえ。ただし必ず屋敷に戻るように」 「了解です、ブラッド」 香りも含め、ダージリンは最高だった。 しかしマスカットフレーバーが栄えるのはセカンドフラッシュだけど、瑞々しいファーストフラッシュもそれに劣らない。 けれどダージリンのファーストフラッシュはとてもとても貴重品なのだ。 そして、ブラッドが何よりも欲しいそのファーストフラッシュはハートの城の女王が持っている。 それから少しして、エリオットが帰ってきた。 そして大きな包みを私にくれた。 「じゃあ、ナノ……これが頼まれたものだけどよ」 「ありがとう。お金はいつかお支払いしますね」 「いや、かまわねえよ。 あんたはブラッドの大事な客だしな。 それより、何するんだ? 一人仮装パーティーか?」 「後で知ってのお楽しみです」 いぶかしげなエリオットに礼を言って私はニコニコと彼に背を向け……笑いを消した。 エリオットからは、かすかに血の匂いがした。 私はそういったところに未だなじめない。 でも、それだけを理由にこの屋敷を出るには、私は親切を受けすぎていた。 ――だから、受けた恩を返してから出て行きます。 これ以上ここで親切にされすぎてはお屋敷を出て行けなくなる。 血の匂いや銃撃に違和感を覚えなくなってしまいそうになる。 ……何より元の世界へ帰りたくなくなってしまう。 それが怖かった。 私は足早に部屋に行き、エリオットからもらった包みを開けた。 3/4 続き→ トップへ 小説目次へ |