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■ブラッドとの勝負・中

私はソファに座っている。
目の前には高貴な香りを放つ紅茶がある。
ただし種類は分からない。
「利き茶、というわけですね」
ブラッドは楽しそうだ。本当に楽しそうだった。
「そのとおり。紅茶のソーサーの下に、茶葉の種類とシーズン、それにグレードが記されている。
それを君にあててほしい。
ああ、もちろん茶葉はブレンドではないし香りづけもしていないよ。
グレードまではいい。そこまで答えさせるのは酷だからね」
「グレードはいいと言われても、シーズンだって難しいですよ。私が好きなのは緑茶で……」
「だが私のお茶会に何度も参加してくれているだろう。答えられないことはないと思っているよ」
「むむ……」
私は唸る。茶葉だけなら適当に答えて当たる可能性もある。
いつかブラッドが教えてくれたとおり、紅茶の元になる茶樹は一つ。
ゆえに茶葉の種類というのは、実はそんなに多くはないのだ。
ただ、少ないなりに、収穫地、グレード、シーズン、ブレンドによってバリエーション
は無数にあり、もちろん湯温や抽出時間によっても味は変化する。鑑定は容易ではない。

……なんちゃって。全部ブラッドの受け売りだけれど。

「君の舌に期待しているよ、ナノ」
ブラッドはソファの向かいに座り、私を見つめている。

私は、しばらく紅茶を見つめる。
鮮やかな赤色に、立ち上るフルーツのような香り。
――確か以前飲んだアッサムはもっとキリッとした男性らしい香りでしたね。
ニルギリはもっと色が濃かったしウバからは強い花の香がしたものだ。
だとすると消去法でディンブラだろうか。
私はカップを手に取り、目を閉じて、そっと一口含む。
甘やかな香りに反し、舌を刺す苦み。
ヌワラエリア? それにしては色が濃い。
私は少し焦ってくる。
「さあ、教えてくれ。お嬢さん。君の舌のレベルを」
急かすようなブラッドに緊張が高まってくる。
紅茶に接して日の浅い小娘に紅茶鑑定士のような真似が出来るわけがない。
――どうしても香りが気になる。キームン? やっぱりヌワラエリア?
以前いただいた紅茶を、頭の引き出しをひっくり返して思い出そうとする。

いつの間にか紅茶を当てることに私は全神経を集中していた。
ブラッドはヒマつぶし感覚で、私だって外に出たいだけで、そこまで真剣になるつもりはないのに。
汗が流れる。
「お嬢さん。答えなさい」
「この紅茶は……」
紅茶の名前が頭の中をぐるぐるする。

シーズンは論外として、種類だけでも答えたい。
自分を落ち着かせるためにもう一度紅茶を飲んだ。
焦る私を落ち着けと促すフルーツのような香り。
その香りはリンゴのような、マスカットのような……。

――マスカテル……マスカットフレーバー!

瞬間、閃光のように私の頭の中に名前が浮かんだ。
私は顔を上げて叫んだ。

「ダージリンのセカンドフラッシュ!」

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