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■オーナーさん


その後、ペーターと別れた私は、塔へ行く前に遊園地に寄った。
「ナノっ!!」
「ナノーっ!!」
遊園地の門をくぐるかくぐらないかという段階で猫とネズミに飛びつかれた。
「おかえり!おかえり!!」
「ちゅうしよ、ちゅう!!」
出迎えてくれるボリスと、いつもと変わらないことを言っている眠りネズミ。
私は彼らを抱きしめかえしながら、
「ごめんなさい。心配かけて。あと、あのときはありがとうボリス」
顔を近づけるピアスを押しのけつつ微笑むと、照れくさそうにボリスは笑う。
「いいよ。その代わり、今度プールにつきあってよね」
「ええ。もちろん……と言いたいのですが、私、水着を持ってなくて……」
うん。プールには一度も入っていない。
『…………』
言うが早いか、猫とネズミの目が光る。すぐさま、
「俺が見立ててあげるよ!!すぐお店に行こう!」
「ナノ、俺!俺が選んであげる!!」
「ち、ちょっと二人とも!私はゴーランドさんにご挨拶に行かないと……!!」
ノリノリの二人を引き離すのに、早くも消耗した私だった……。

…………。
ゴーランドさんの部屋は、空調もきいていてとても涼しかった。
私はテーブルを挟み、ソファに座って向かいあう。
「ゴーランドさん。このたびはご迷惑をおかけしました」
監獄の存在をここの人たちから聞いたことはない。
でもやはり皆知っていて、ゴーランドさんも色々尽力してくれたんだそうだ。
私が深々と頭を下げると、ソファに座るゴーランドさんは、私の頭を撫でる。
「よく帰ってきてくれたな。元気な顔を見られて本当に嬉しいぜ」
笑顔になると少し歳の離れたお兄さんのよう。
「いろいろあって疲れただろう。しばらくは遊園地でゆっくり休んで行けよ」
「あの。それなんですが、すみません……」
できる限り気を悪くされないようにと、私は言葉を選びながら話した。

「そうか……遊園地を出るのか」
「ええ。ユリウスやペーターと再建計画も立てたし、元の場所に帰ろうと思って」
ゴーランドさんはガッカリしたようだった。
けれど予想に反して、止めてこなかった。少し悲しそうな顔で、
「まあ、サーカスも終わったしな。収束するものは収束するだろ」
「?」
ゴーランドさんもやはりというか引っかかることを言う。
馬鹿にされているわけではないらしいけれど。
「エイプリル・シーズンだけでもあんたと知り合えて良かったぜ。
次は、俺にもちゃんと守らせてくれよ」
やっぱり引っかかることを言って、私の額にキスをしてくれた。
「で、あんたの新しいワゴンのことなんだが……」
「え……?」
ゴーランドさんは立ち上がった。

…………。
炎天下の遊園地で、私とオーナーさんは言い争っておりました。
「お金、払います!!」
「いいから、いいから」
「払います、払います、絶対に払います!!」
「いいって言ってるだろ。受け取っとけ、受け取っとけ」
言い合いの激しさに他の人まで集まってきた。
「そうだよ、ナノ。くれるって言ってるんだからもらっときなよ」
ボリスは例によって遠慮という言葉を知らない。
「アレな配色の猫さんは黙っていてください」
「あ、アレな配色って、地毛だよ、地毛!!」
ちょっとショックを受けた風な猫は無視して。

ゴーランドさんが『見ていてやらなかったお詫びに』という意味不明な理由で
用意してくれた新生『銃とそよかぜ』移動店舗。
それは設備も大きさも比較にならない立派なものだった。
前の者が『自称中古』だったのに対し、こちらは完全に新品。
前回の冷蔵機能に加え、冷凍機能、紫外線99%カット日よけ付き。
収納スペースも拡大し、自動皿洗い機に足元用冷暖房。
挙げ句に運転席がついて自分で運転し、移動出来るというもの。
これ一台あれば不思議の国のどこでも行けます的な。
ついでに言うと車体には何やら派手な店名ロゴまで入っている。
「もちろん防犯はバッチリだ。このレジスターに勝手に触ると、各種カウンター装置
が機能して高速ライフルで自動応戦してくれるんだぜ!」
何か周りの人は拍手までして、うらやましそうにワゴンを見る。
「お、応戦て……」
「ああ、心配するな。もちろんガードも万全だ。このボタンを押せば防弾ガラスが
展開して、店に銃を連射されても耐えられる。抗争のど真ん中でも商売出来るぜ」
「誰がそんな場所に買いに来るんです……」
もはや、ちょっとしたミニ要塞だ。個人の手には余る。

「ゴーランドさん……」
困り果てて言うと、やっと通じたらしい。少し考え、オーナーさんは言った。
「ならレンタルにしよう。それならいいだろ?」
「レンタル?」
「ああ。このワゴンを買い取れるくらい金を貯めるまで、遊園地のものってことに
しておくんだ。もちろん遊園地があるときはずっと使っていてくれ。
そうすれば……離れることがあっても、このワゴンが俺とあんたの絆だと思える」
「…………」
クローバーの国では遊園地は無かった。

「ありがとうございます、お借りいたします。ゴーランドさん」
私は深く深く頭を下げた。

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