続き→ トップへ 小説目次へ ■ブラッドとの勝負・前 「ブラッド、失礼します」 私はブラッドの室内に入り、頭を下げる。 お茶会のお呼ばれ以外で入るのは初めてのことだった。 ここはブラッドの私室兼書斎であり、仕事をすることもあるらしいので、なるべく遠慮するようにしていたのだ。 「やあ、ナノ。来てくれたのか。待っていたよ」 書類仕事をしていたらしいブラッドだが、それでも私を見ると笑顔になり、立ち上がった。 「さあ入ってくれ。今、紅茶と菓子の準備をさせよう」 「あ、いえ。お構いなく。用が済んだらすぐ出て行きますので」 手を振って止めると、ブラッドは少し真面目な顔で私を見る。 「どうかしたのか、ナノ? 何か悩み事でも?」 「ブラッド。屋敷の外に出る許可をもらいたいのですが」 理屈はよく分からないけどブラッドの許可がないと出られない。そういうことらしい。 するとブラッドは渋い顔になる。 「君を外に出したくはない。 関係者だと思われて危険に巻き込まれる可能性が高いし、私たちも気が気でないよ」 「…………」 ブラッドたちはマフィアをやっている。 最初に聞いたとき、変わった帽子のお兄さんやウサギ耳の人がマフィアと聞いて笑ってしまった。 けれど私がどう思おうと、ブラッドたちは時々、赤い物を服に散らして帰ってくる。 お屋敷の外、ときには中で爆音や銃声を聞いたこともある。 私が思っていたより、この世界は安全ではないらしい。 そのことに私も少しずつ気づき始めていた。 「親切はありがたいですが、家に帰るときまでずっと、お屋敷にこもってはいられません」 「こもっていて欲しいものだがな。 私が呼んだとき、いつでも君が来られるように」 ブラッドは笑う。 そう言われて困ってしまった。 このお屋敷ではブラッドは絶対らしい。 彼がNOと言ったことに、私は逆らえない。 「うーん、困りましたね」 玉露の袋をお守りのように抱え、困った困ったと繰り返す。 そんな私を楽しそうに見ていたブラッドは、ふとニヤリと笑う。 何か企んでいそうな顔だった。 「なら、ゲームをしないか? お嬢さん」 「え?」 ブラッドは指をパチリと鳴らした。 1/4 続き→ トップへ 小説目次へ |