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■絡まれた話・下

※R18

私は突然の闖入者に慌て、服を取ろうと立ち上がる。
けれど素早く動いたエースに手首をつかまれた。
「待ちなよ、ナノ」
「離してください!」
助けを求め、ユリウスを見ると、
「エース、おまえ……いつから見ていた?」
苦虫をかみつぶしたような時計屋の顔があった。
「ずっと。酔ったおまえが、ナノの名前を呼んでフラフラ歩いて行ってから後をつけてたんだ」
「…………」
酔っていた理由はエースに酔い潰れさせられためらしい。
おかげでとんだ目にあった。
私は自分の格好も忘れ、どういうことだとエースを見る。
ユリウスの好きな人とユリウスを結びつける作戦ではなかったのか。
「鈍いなあ。ユリウスはハートの国からずっと君だけを見てたんだぜ?」
「ほ、本当なんですか?」
「君には悪いと思ったけど、君がそんなに頭が良くなくて助かったぜ」
「…………」
相変わらず爽やかに人を嘲笑する人だ。
ユリウスを見ると、酔いがまだ残る様子の時計屋が、
「来い」
と私の逆の手を引き寄せた。あっさりエースが手を離したので、私はユリウスの胸に
まともに倒れかかる。
「痛……っ」
けれど抗議の声が出る前に唇をふさがれる。
同時に、まだ服のうちにしまわれていない彼の……が、また熱を取り戻しつつある
のを感じる。
「わ……」
再び芝生に押し倒された。まだ潤んでいる下の谷間を擦られ、羞恥も忘れ声が漏れる。
「あはは。熱いなユリウス、ナノ」
「ダメ、止めてください!」
我に返った私はユリウスをどけようとする。エースがそばにいるのだ。
けど必死に抗おうとするとエースがしゃがみ……上から私の両手を押さえつけた。
「抵抗するなよ、ナノ」
「エース!?……ん……!」
逆さまのキスをされる。いつもと違う奇妙な感触だ。
けれどそれどころではない。
状況が分かるにつれ、悪寒が背筋を這い上がっていく。
「や……っ」
エースの手が私の胸に伸びる。ユリウスはというと、エースを睨みつけている。
けれどグレイに対峙したときとは逆に強く出られないらしい。
そういえば、エースのことを責めるグレイにも、ユリウスは歯切れが悪かった。
ユリウスは上司だけど、エースを利用してもいるし利用されてもいる。
分からない。
この二人の関係は複雑すぎて私には全く。
「なあ、ユリウス。俺がいなかったらナノに告白どころか×××も一生無理だった
よな。他の奴がナノを好きにするのを見てるだけだっただろ?」
エースはまるで私に説明するようにユリウスに言った。
「…………」
ユリウスは返事をしない。エースは手袋を脱ぎ、私の胸に直に触れる。
そして悪夢のようなことを言った。
「だからさ、俺も混ぜてよ」
「…………」
「…………」
ユリウスは拒否しない。私はただ身体を震わせ、言葉が出ない。
誰も返事をしない。ただエースを凝視する。
遠くで上がる花火を、どこか悲鳴のように感じた。

…………。
「ん……やだ……もう、許して……」
「ダメダメ。ほら、もっと腰振って」
背後から私を貫くエースは非情に熱を打ちつける。
「こっちもだ、ナノ」
「……ん……」
ユリウスに頭をつかまれ、彼自身への奉仕を再開させられる。
必死に舌を動かすけれど何度も達しているせいか反応が薄い。
この二人に上と下で何度吐き出されたかも分からない。
「ナノ……」
エースに強く打ちつけられ、ユリウスに奉仕する口の端から悲鳴がこぼれる。
けれど助けはどこにもない。
何をされても痛みしか感じず、ただ終わってほしいとしか思えない。
「ナノ……出すぜ……!」
「……っ!」
後ろに、エースの熱が吐き出される。
「ナノ……っ」
同時にユリウスが私の名を叫び……達した。
「げほっ……げほっ……」
上と下から白濁した液をこぼし、身体を折って、芝生の上でうめく。
そこもすでに清浄では無く、三人分の体液にまみれた汚れた場所になっていた。
髪に全身に汚れが絡みつくけれど、きれいにする気力もなかった。
「はあ……はあ……」
もう起き上がりたくない。遊園地の花火もようやく鳴り終わり、そろそろ夏祭りも
最後のようだった。
「そろそろ俺たちも終わりにするか。猫くんたちに見つかると厄介だしね」
「……ああ」
ユリウスの声に安堵する。
「じゃあナノ、頼むぜ」
けれど目の前に突き出されたものに、反応が遅れる。
まだ液をこぼすエースの……だった。
「え?」
終わりでは無いのか。何をすればいいのか分からず彼を見上げると、
「ほら、舐めてきれいにしてくれよ。俺が終わったらユリウスのもな」
「…………」
私はゆっくりと、ゆっくりと身体を起こし、エースの……を口にふくんだ。
もう屈辱すら感じない。
抵抗するくらいなら従った方がマシ。
それはこの世界に来ていろんな人に教えられたことだ。
ただ、涙だけがこぼれた。
――私が悪い、私が……。
弱い自分が悪い。
きっとどこかでエースやユリウスを誘う真似をした。
弱い自分が悪い。抵抗しない自分が悪い。
エースに続き、ユリウスの……も清め始める。
涙でぼやける視界でただ彼を見上げた。
寡黙な時計屋を誘った自分が悪い。
「ごめんなさい、ユリウス」
奉仕を終え、意識をやっと落とす寸前にユリウスにそれだけ呟いた。
瞬間に時計屋の目が見開かれ、なぜか彼も泣きそうな表情になった。
自分への果てしない嫌悪、他人への恐怖にさいなまれ、私は自分で自分の身体を強く
強く抱きしめ、うずくまるように夢無き眠りに落ちた。

……目が覚めたとき、身体は出来る限り清められ、別の芝生の上に眠っていた。
全身の疲労と下半身の痛みで最初は歩行さえままならなかった。

けれど助けてくれる人がいるわけもなく。私は覚束ない足取りで祭りの終わった
遊園地を歩き、しばらくしてワゴンを隠した場所に行った。

……爆発のあった現場はまさにそこだった。
ワゴンはめちゃめちゃになり、エスプレッソマシンは原型を留めず吹っ飛んでいた。
「時間が経てば、直りますよね、時間が経てば……」
叫びすぎてかすれた声で呟く。それはこの世界でありがたい点の一つだ。
「あれ、フレンチプレスしか……他の茶葉や豆は……」
よく見ると、無事な物が見当たらない。いや、傷の少ないものが持ち去られている。
私の目の前で全く知らない余所の領地の顔なしの人が、最後のタイヤと珈琲機材を
持っていった。
その人は銃を携帯している。私は止めることも出来ず、ただ呟く。

――私が悪い。私が。

エースは軍事責任者だ。よその領地の爆破計画を知っていておかしくない。
平和主義を半端に標榜して、銃を持たなかった私が悪い。
私はフラフラと歩き出す。
でもどこへ行けばいいのか分からない。
いやボリスたちに会い、ゴーランドさんに会って店の再開について話し合って。
そしてまた無かったことにすればいい。
夏祭りの悪夢も、エースとユリウスのことも。何もかも。
「そう、楽しいことだけ、考えてればいいんです」
楽しいことを考えていれば、楽しいことが向こうからやってくる。

でも今は、楽しさより他のものが欲しいなと思った。

3/5

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