続き→ トップへ 小説目次へ ■外に出られません・後 私とエリオットは、領内の木陰に並んで座っていた。 エリオットは仕事で外出する予定だったらしけれど、私が外に出られず少し落ち込んで いたのを見て、使用人さんたちに言って出発を遅らせてくれたらしい。 優しい人だ。 「ほら、とっておきのニンジンクッキーだ。食え」 「どうも……」 いただいたクッキーは、焼き色鮮やかな橙色で、ほんのりとニンジンの香りがした。 このクッキーに合わせる紅茶はアッサムだろうか。 いえ、クッキーをより良く味わうなら控えめなディンブラも……。 「外、出たいか?」 「――はっ!」 ニンジンクッキーに合う紅茶を考えていて、妙に深刻な顔になっていたらしい。 「あ、ええ、はい、出たいですね」 出られなければブラッドのための『作戦』が実行できない。 するとエリオットは同情したような顔で、私の頭をなでた。 「でも俺にはブラッドの気持ちも分かるぜ。 あんたは小さいし、どこか抜けてるから、フラフラ外に出たら撃ち殺されそうで心配なんだよな」 撃ち殺されるとはまた、穏便ではない。 ……でも、エリオットの言葉からすると、私が外に出られない原因はブラッドにある気がする。 考えてみれば、ここはいろいろ不思議なことが起こる世界だ。 もしかして、時々意地悪なブラッドがまた私に意地悪して外に出させてもらえないのだろうか。 それを確認する前にエリオットは、 「あんたには安全な場所で、茶でも飲んで呑気に過ごしてて欲しいんだ。 ブラッドだってあんたがいると機嫌がいいし、俺たちも、帰ったときにあんたが笑顔で迎えてくれるだけで結構嬉しいんだぜ?」 そう言われて私は首をひねる。 ここに来て間もない部外者が『おかえりなさい』ということがそんなに嬉しいんだろうか。 よく分からないでいると、エリオットは立ち上がった。 「欲しいものがあるなら外で買ってきてやるからよ。 何がいい? 緑色のお茶か? それとも新しい湯呑みか?」 「え、いえ、私は……」 「何でも言えよ!」 エリオットはお兄さんみたいな顔で頼もしく笑っている。 お茶や器はブラッドが勝手にそろえてくれるけど、私自身はまとまったお金を持っていない。 居候として図々しい気もするけど、エリオットの好意に少しだけ甘えることにした。 「それではですね。私が欲しいのは――」 私が頼んだ物に、エリオットは目を丸くした。 5/5 続き→ トップへ 小説目次へ |