続き→ トップへ 小説目次へ ■外に出られません・前 「うーむ」 私は玉露を抱え、門の前で途方に暮れていた。 意を決して歩を進める。 「あたっ」 でも門の敷居を越えるか越えないかという地点で見えない壁にぶつかってしまう。 「この……っ」 見えない壁をぐいぐい押してみる。 ビクともしない。 「開いてぇーっ!」 どこかのヒロインの物真似をしながらドンドン叩いてみる。 うんともすんとも言わない。そこへ、 「お嬢様、こんにちは〜」 「俺たち仕事に行ってきますね〜」 使用人さんたちが私の横をアッサリすり抜け、外に出て行く。 「お仕事ご苦労さまですー」 私はニコニコと手を振って見送り、そして我に返る。 なぜ彼らに出来て私に出来ないんだろう。 「よしっ」 私は決心すると門から少し距離を取り、少し身をかがめた。 両手の先を軽く地面につけ、 「3……2……1!」 猛ダッシュを開始する。 短距離走者っぽく両手を指先までピンと伸ばし、砂煙をあげて門へ突っ走る。 ……でも激突はちょっと怖くて目をつぶり、勢いのまま外へ跳躍した。 「えいーっ!」 「っと! 危ねえぞ、ナノ!」 激突はしなかったし、靴底に衝撃が来ることもなかった。 代わりに私は、大きくて暖かい何かに受け止められた。 目を開けると、エリオットが私を抱きかかえていた。 どうも走り幅跳びでジャンプした私を見事に抱きとめたらしい。 なのにエリオットは、どこも怪我をした様子がない。 すごい怪力ウサギさんだ。 「いきなりあんたが全力疾走してくるから何かと思ったぜ!」 そう言って、私の身体を地面に下ろすと頭をなでた。 「走ること知らねえお嬢みたいに思ってたけど、あんた結構早いんだな。 いい踏切りだったぜ」 でも危ないから止めとけよ、とエリオットは片目をつぶる。 しかし私は、 「いえいえ。これは自由への跳躍というものです」 私は勝利に満足し、エリオットに笑顔を見せる。 「え? あ、そうなのか? 良かったな」 人の良いエリオットはさっぱり分からないはずなのに一緒に喜んでくれた。 とにかく、明らかに壁にぶつかる距離を飛んだのにぶつからなかった。 つまり私は外に出られた。 ここはもう自由の大地……と辺りを見回し、 「あら?」 「どうしたんだ? ナノ」 エリオットの言葉には返答せず、私は目をしばたたかせる。 帽子屋屋敷領だった。 門の外に跳んだはずだったのに、なぜか内側に跳んでいた。 そして、今しがた屋敷から出ようとしていたエリオットに抱きとめられたらしい。 「…………」 「ナノ?」 私は顔を上げ、 「エリオット。一緒に外に出ましょう」 「え?」 「いいからいいから」 戸惑うエリオットの背をぐいぐい押し、門へ進む。 「お、おい。ナノ、そんなに押すなって!」 エリオットはアッサリ敷居をまたいで、二、三歩よろめいてこちらを向いた。 そして私は、 「うう、痛い……」 見えない壁にまたも顔をぶつけ、涙目でしゃがみこんだ。 4/5 続き→ トップへ 小説目次へ |