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■紅茶談義とビジネスチャンス

「へえ、ゴールデンドロップですか」
「ああ、ポットの最後の一滴で、そこには紅茶の成分が凝縮されている」
私は美しい味わいの紅茶を飲みながら、ブラッドの部屋でお茶会に参加していた。
「緑茶にもゴールデンドロップのような考え方がありますか?」
「紅茶ほど重要視されてはいないが、緑茶でも最後の一滴まで注ぐようだね。
急須はティーポットに比べて小さく、二煎目三煎目を楽しむことが普通だから、前のお茶を残さない、という考えもあるかもしれないな」
「なるほど」
私は紅茶をすすりながらブラッドの講義を拝聴する。
紅茶以外の飲み物については知識がないと思っていたのに、帽子屋屋敷の主ブラッドは、緑茶方面も博識だった。
「紅茶にたどりつく前に、ありとあらゆるものに手を出したからな。緑茶もその中に入っている。
今でこそ世界の食卓を彩る紅茶だが、緑茶の方が世界中で熱狂的な支持を受けていた時代もあったんだよ。
君にとっては残念だろうが、君の国が誇る茶は、その後紅茶に完全にシェアを逆転され廃れてしまったがね」
「へえ……」
感心しながらも私は内心首をかしげる。
ここは異世界ではなかったのだろうか。
なぜブラッドは私も知らない、世界のお茶の歴史を知っているのだろう。
首をひねる私をよそに、ブラッド自ら新しい紅茶を淹れてくれる。
私は飲む前に目を閉じて香りを味わい、
「このお茶は花の香りがしますね」
するとブラッドは嬉しそうに、
「さすがだ。ナノなら分かると思っていたよ。
君に喜んでもらえるよう特級のキームンを取り寄せてみたんだ。
この神秘的な深い赤色も是非楽しんでくれたまえ」
「ええ、ありがとう」
紅茶は美味しく、茶菓子に用意されたタルトも文句のつけようがない。
……でも、それがどこか申し訳なく、落ち着けない。
私は話をそらすため、ブラッドに、
「ブラッドは世界中のどんな紅茶でも取り寄せられるんですね」
と称賛を口にする。
するとそれまで上機嫌だったブラッドが急に渋い顔になり、
「いいや。金と権力を持ってしても、手に入らないものもある。
特にハートの城の女王にはしばしば競り負けていてな。
どうしても手に入れたい茶葉を幾度奪われたことか……」
悔しそうに端麗な顔をしかめる。
「この間も貴重なダージリンのファーストフラッシュを取られてしまってな。
手を尽くしたが、市場に出回っているものは女王が買い占めたようだし、二度と
出会うこともあるまい。いやもう飲み尽くされたかもしれないな……。
ああ、あれを手に入れられるならどんな対価でも払うというのに……」
そう言って恋人と生き別れた男のようにうなだれる。
その嘆きを聞きながら、
――もしかしたら、私に出来る仕事があるかもしれませんね。
私は新しい仕事のアイデアに、密かに顔を輝かせていた。


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